1 / 9
遭遇
コンビニのバイト、深夜から早朝にかけてのシフトが終わった浅生は、住んでもうすぐ一年になる一人暮らしのアパートに帰宅するところだった。朝の5時半、住宅街は閑散としている。いつもはこの時間ほとんど人と出会うことは無いけれど、家まであと100メートルほどというところにバス停があるのだが、今日はそこに人がいた。
スーツ姿の40手前くらいの男がベンチに座って俯きスマホをいじっている。その近くでは園児服を着た男児がしゃがみ込み、虫か何かをじっと見ている。しゃがんだままじりじりと進んでみたり、ぴょんっと向きを変えたりと興味が次々と移っている様子がうかがえる。そんな様子を浅生は何気なく見ていた。
そのまま通り過ぎようとした浅生は、けれどぎくりとして足が止まった。――車が来ている。この時間、交通量は限りなく少ないけれど車がまったく通らないわけじゃない。まだだいぶ距離があるが、浅生は嫌な予感がした。園児の身体は車道に出ている、まさか父親が注意するだろう、そう思って視線をやるが父親の視線は手元のスマホ、状況に気付いている様子はない。
じゃあ、車は? 徐行するだろう普通、そう思うのだが車は減速することなくその車体が段々と大きくなる。
園児の顔が道路の真ん中の方を向き、ぴょんと跳ねた瞬間に、浅生は道路に飛び出していた。
ともだちにシェアしよう!