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怒り

 車が走り去り、腕の中の存在に怪我が無いことを確認する。彼は何が起きたか分からないという顔で目を丸くしている。浅生は園児を離すと父親の方に向き直った。 「おいっ!」  父親はスマホを持った姿のまま呆然とした顔をしていた。 「てめえの子供だろうが! 目ぇ離してんじゃねえよ!」  一歩間違えば大惨事になるところだった。もし、自分がここを通らなかったら、シフトがこの時間じゃなかったら、あと数分時間がずれていただけでこの子供は死んでいたかもしれなかったのだ。随分無責任だと思った。スマホに夢中で子供をほったらかし。何が起きたか分からないと言った風にぼんやりとしている様子に浅生の怒りは増していく。カッとなった浅生は父親の方に駆け出す…そうとして何かに脚を取られた。無理に外そうとしてはっとする。園児が右足にしがみついていたからだ。 「パパをいじめないで」  自分を父親の方に行かせまいとして踏ん張る姿に、浅井は動きを止めた。それでも園児は離れない。それだけ必死なのだ。どうにもならなくなった浅生は父親の方を見る。そして、唖然とした。――父親は、さっきと同じ表情のままぼろぼろと涙を流していた。

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