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「おい、あんた大丈夫か」  浅生の言葉に、父親ははじかれたように顔をあげ、浅生と浅生の足元にいる息子とを見比べ、道路を見る。途端に顔色をさっと蒼くして立ち上がる。カシャンとスマホがアスファルトに落ちた。それを気にする様子もなく、或いは気づいていないのかもしれない、息子の方に駆けて行くとその身体をぎゅっと抱きしめた。 「っ…、め…、ごめ…ん…、望っ…」 「パパ、泣かないで。ごめんなさい、ごめんなさい…」 「本当に、よかった…」  無事で、という言葉は、消え入りそうなくらいに弱弱しくて、でもそれは朝の静かな通りにはよく響き、浅生の耳にもしっかりと届いていた。  その間に浅生は場所を移動していた。ベンチのそば、手を伸ばした先には父親の落としたスマホがあった。画面には傷などないようで、拾った途端に画面に触ったのか暗い画面がぱっと光った。そこに映ったものを見てしまって、浅生は何となくバツが悪くなって目を逸らした。  逸らした先で父親と目が合う。浅生は足を進め、スマホを渡す。受け取った男は目を伏せて言った。 「…妻なんだ」 「……………」  男は無理して笑っているようだった。それにどんな顔で返せばいいのか浅生には分からなかった。

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