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「や、だから知らんてば!タバコとか、糸井 くんがとか、本人に聞けばいーだろ!柊 ちゃんだって高校んときからぷーぷー吸ってたくせに、も、離せよ、この、く、くそ、くそのくそバカ!」
「ああ?くそのくそバカだあ?担任の先生様に向かってなんだその口の利き方は。最近、糸井たちとつるんで一丁前に不良気取ってるらしいが、おまえみたいなおバカちゃんは、いいようにパシられてポイだぞ。あと、柊ちゃんじゃない、高嶺 先生様だ」
昼休み、有無を言わさず公衆の面前で担ぎ上げられ、文字通り投げ込まれたのは理科準備室。
物理教師であり、担任であり、さらには幼馴染みでもある高嶺柊一 は、相変わらずの保護者面でがみがみくどくどと説教を垂れた。
昔からやることなすことにいちいち口出ししては必ず、おまえには合わない、身の丈を考えろなどと文句ばかりつけてくる。
そんな柊一から逃れたくて、地元を離れ、山奥にある全寮制の高校を受験したというのに。
入学式後の赴任式で、女子生徒にきゃあきゃあ騒がれながら爽やかに壇上で挨拶する柊一の姿を見て、思わず卒倒してしまった。
柊一と同じくらい世話焼きで心配性な母が、この学校に進学することを素直に応援してくれたのも、二人して裏で結託して、こういう算段だったのだろう。
例のごとく、まんまと嵌められたわけだ。
一向に振り払えない腕を振り回し、真鍋 ネオンは柊一をいーっ、と睨みつけた。
「あのなあ、ネオン、おまえはいったい何歳児だ。都合が悪くなったらいーって顔をするのは、みっともないからやめなさい」
「う、うるさい!柊ちゃんは昔っから、オレをガキ扱いして、バカにして」
「バカでガキなのは事実だろう?ついこないだも糸井たちに誘われて、夜中に無断でホラー映画鑑賞会なんか開きやがって。案の定、トイレに行けなくなったおまえの寝小便を、誰が片したと思ってんだバカガキ」
柊一の言葉に、羞恥と怒りで顔が熱くなる。
「ちが、ちょっと間に合わなかっただけだろ!」
「泣きながらオレにちんこ拭かれてたヤツの態度とは到底思えねえなあ。怖がりのくせに見栄張るからそんな目に遭うんだろ。不良の真似事をするにも、まずはここの毛が生え揃ってからにしろ」
無駄に整った顔はにやりと不敵な笑みを浮かべ、その長い指先でネオンの股間をピン、と弾いた。
「な、この、くそバカーっ!変態、淫行教師」
「あのなあ…」
呆れたようにため息を吐く柊一を突き飛ばし、ようやく解放されたネオンは、最後にもう一度いーっと睨みつけ、一目散に部屋から逃げ出した。
「アホだな」
柊一の声は、走り去るネオンには届かなかった。
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