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1-子ぎつねコンコン親ぎつねギシャァァ!
あるところにそれはそれは優しいお兄さんと。
それはそれは意地悪なお兄さんがいました。
マンガの一コマで表すなら、にこにこ笑顔の太陽さんが「今日もいい天気ダネー」と言いそうな、そんなよく晴れた日のこと。
「きゅるきゅるきゅる……」
それはそれはちっちゃな、ふわふわ、もこもこ、つまりテラカワイイ小ぎつねが山の中で罠にかかって、きゅるきゅる、泣いていました。
罠を仕掛けた意地悪お兄さん、あんまり使い道のなさそうな子ぎつねをどうしようか、切り株に腰かけて足をくみくみ、半端ない貧乏揺すりをしながら面倒臭そうに考えていたら。
優男お兄さんがやってきました。
罠にかかったまま痛そうにきゅるきゅる泣いている子ぎつねに心を痛めた優男お兄さん。
今日の晩御飯として釣り上げていたお魚と交換してほしい、意地悪お兄さんにそうお願いします。
「魚ぁ? 肉のほうがいーんだけどよ、ま、しゃあねーか」
えっらそうな意地悪お兄さんと交渉成立、優男お兄さんはそっと罠を外してやり、足を痛めた子ぎつねをおうちに連れて帰ると包帯まきまき、手厚く介抱してやり、山へ帰してあげました。
「きゅるきゅる」
かわゆいしっぽをふりふりさせ、手を振る優男お兄さんを何度も名残惜しげに顧みつつ、子ぎつねはおうちへ帰りましたとさ。
「ドウシタ、ケガシタノカ、ダレニヤラレタ」
「フモトノ、ムラ、スム……イジワルオニイサン」
「………………ユルスマジ」
その夜。
眠る優男お兄さんの元を訪れたのは。
「きゅるん……こんばんは」
人に化けた子ぎつねです。
ふさふさ狐耳つき、カワイイ幼女風男子となったショタ子ぎつね、びっくりしている優男お兄さんの寝床にもぞもぞ潜り込んできました。
「優しいお兄さん、恩返し、きまちた」
一方、意地悪お兄さんの元には。
「うわー! 殺されるー!」
子ぎつねの親ぎつねがやってきました。
どでかいです。
熊よりもでかいです、見るからに凶暴です、凶悪です、というか明らかに普通のキツネじゃあありません。
そうです、ケガをした子ぎつね、その親ぎつね、妖怪の血を引く妖狐一族の末裔なのです。
おうちの隅っこでぶるぶる震える意地悪お兄さんを睨み据え、親ぎつね、鋭い牙がずらりと並ぶ残酷おくちをカパァと開き、鳴きました。
「ギシャァァァァァァァア!!!!」
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