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10-番外編-物の怪だって恋がしたい!
■この話は別シリーズ「獣人・獣姦・触手系」の「覗いてはなりませんフラグ」ともリンクしています
https://fujossy.jp/books/5319/stories/105801
もののけ、もののけ、何見てさわぐ?
十五夜お月様見て酒呑んで甘露甘露さわぐ?
その夜、この世とあの世の繋ぎ目なる異界にて。
物の怪寄合が開かれていた。
誰かが見た夢のように艶やか立派な屋敷、だだっ広い大座敷、工夫をこらした肴に薫りだけでほろ酔いしそうな美酒がずらり。
和気藹々というムードからは程遠い。
何せ物の怪だ。
気性が荒く、自尊心の高い自惚れ屋、エゴイストばかり。
「あの古狐、いつくたばってくれるのかね」
「目障り、目の上のタンコブ!」
「憎さ余って殺意百倍!!」
不平不満を大声で洩らしているのはまだまだ年若い狸衆だ。
そんな狸どもから離れた隅で格子窓越しに月見酒を嗜んでいた妖狐一族の末裔、九。
風もないのに雪色の長い髪を不吉に揺らめかせ、ぎゃーすか最もうるさい新参物の怪にズバッと言う。
「酒の呑み方を知らない無粋な狸風情めが。馴れ馴れしく僕の話をするでないよ」
「何様!」
「このナルシストが!」
「人間男の嫁になんぞなりやがって、このホモリア充!」
九の手にしていた盃がバリン! おそばでおもてなししていた屋敷の一つ目女中が「ひっ」と思わず悲鳴を洩らした。
「股間にぶら下がるその無用な袋、今度は二つとも奪ってあげようか」
いつぞや九に大事な大事な袋を片方奪われていた狸共は「ひっ」と思わず内股に。
そんな狸と狐の小競り合いを見るに見兼ねた物の怪がいた。
真っ白な髪をゆらゆらさせている九に新しい盃を手渡し、白無地のとっくりに両手を添えて酒をとくとくとくとく。
「……九殿、嫁がれたのか?」
山犬長の縞政 、顔の左半分を長い髪で隠した彼に問いかけられ、気を取り直した九は頷いた。
「あの下世話な狸の言う通り。僕としたことがね。身も心もすっかり奪われてしまってね」
「……そうだな、まさか貴殿が嫁ぐ側になるとは」
「まぁいずれは娶るつもりでもいるけれど。そういえば君の方も娶ったんだってね」
「……」
ぽぉぉ、と顔の右半分が赤くなった縞政。
思わぬ反応に、ほんのり朱色に縁取られた切れ長な双眸を瞬かせ、九は微かに笑った。
寄合のムードがやっと和やかな方向に流れつつあった、そんな矢先のこと。
ギシ、キシ、ギシ、キシ
物の怪らでさえも耳を塞ぎたくなるような何とも気味の悪い音が聞こえてきた。
無数の何かが細かに蠢くような鳥肌モノなる音色。
そうして大座敷を囲う障子にぬらり、浮かび上がる影。
長い体を大蛇のように空中で不気味に躍らせて、ぞ、ぞ、ぞ、ぞ、ぞ、障子の向こうをゆっくり横切っていく。
そして。
「遅れてしまって申し訳ないねぇ」
開け放たれた障子の狭間、縁側に現れたのは大百足の這虫 だった。
長身に着流し、やたら物騒なギザ歯。
体どころか頭や顔にまでぐるぐるぐるぐる巻かれた包帯。
隠された右目、覗いた左目はさも酷薄そうな狂気を秘めていて。
盃を持つ物の怪らの手が思わず止まった。
いわゆるイカれ野郎なキチ〇イの這虫は多くのあやかしから敬遠されている。
物の怪といえども物の怪の道理がある、掟がある。
「おやぁ。ごめんなさい。宴に水を差してしまったかしら」
這虫はそれらを破る常習犯なのだ。
要は……大食なのだ、
バリン!
次に盃を割ったのは……最初に割った九を、はいしどうどう、していた、縞政だった。
縞政と這虫の確執は物の怪なら誰でも知っている。
縄張り争いで互いに片目を失った。
それに、先日も、何やら一騒動あったとか。
「誰が這虫なんか呼んだんだ」
「勝手に来たんじゃねーの」
「何せイカれぽんちだからな」
狸どもがコソコソ言い合っている。
九は隣で一瞬にして殺気立った縞政を見ている。
縞政は黒水晶の片眼でえへらえへらしている這虫を見据えている。
容赦ない眼光を浴びた這虫はひょいと縞政に目をやって、ニィィッ。
「これはこれは、縞政サマ、あれ、言いにくいねぇ、縞政サマって、舌噛みそう」
「……」
「この間は驚いちゃって、だって縞政サマ、境界線破ってコッチにいきなり現れるもんだから」
「縞政が境界線を?」
陣地の境界線を破る=掟破り
「まさかあの気高い縞政サマが卑怯なマネするなんて? 思ってもみなくって?」
黒く塗られた爪先で包帯の余りをクルクルして這虫はおちゃらける。
縞政は重々しげに一息ついた。
そして。
「……先日は無礼なことをした、すまなかった」
その場で跪くと頭を伏せて這虫に詫びた。
ざわめく物の怪ら、興味津々に事の成り行きを見物する狸ども、すぅっと切れ長な双眸を細めた年嵩の古狐。
自分の非礼を認めて頭を下げた縞政に這虫は「大袈裟な」とギザ歯をガチガチ音立たせて笑った。
しゃがみ込んで<伏せ>したままでいる山犬長を覗き込む。
狂気漲る片目を爛々と光らせて。
「それにしても」
あのコの骨はとっても甘くて美味しそうだねぇ、小指の一本ほどポキリと、ね、くれないかい?
畳と対峙していた縞政の片眼が……ギラリと光った。
薫り高いイ草に、急に伸びた鋭き爪が、ブスブスと突き刺さる。
ぶわりと舞い上がった髪。
雄々しい犬耳が突き出で、牙が尖らされ、猛然と湧いてくる怒りに「ウウウウウ」と喉奥から迸る唸り声。
愉快そうに笑う這虫、臨戦態勢に入ろうとしている縞政を落ち着かせようとした九、いけいけやれやれと内心湧き立つ狸ども。
「おやめなさいな」
ず………………ん………………!
目に見えない圧力を背中に覚えて大座敷にいたほとんどの物の怪らはぐっと息を止めた。
狸どもも、縞政も、九も、だ。
「今宵は十五夜の宴、物の怪水入らず、盃を血で浸すことこそ無粋でしょうに」
ぼんぼりの薄明かりに映える妖花さながらな美貌。
緋色の双眸。
少年とも青年とも見て取れる潤いに満ち満ちた艶肌。
カラスの濡れ羽色の髪。
詰襟にインバネスを羽織って、両脇には般若の面をつけて物々しく武装した配下を従えさせて。
代々、物の怪らを束ねる一族の当主。
安寧の暮らしを好み、争いは極力控え、人にも滅多に手を出さない。
しかし、ひとたび、怒りを買えば。
逆鱗に触れようものなら。
祟り、禍、恐るべき報復が舞い降りて後には屍が山と積み重なる……。
「山犬長の縞政、オイタはいけませぬ」
今夜の座を設けた、この屋敷に棲み暮らす緋目乃 はそう言ってクスクスと笑った。
「どうにもこうにもお邪魔みたいだねぇ」
当主の可憐な笑い声だけが響く大座敷を飄々と後にした這虫。
「……手前も退席させて頂く」
異界を去って己の山へ、簡素な庵に帰った縞政。
「ん……あれ、おかえりなさい、縞政、早かったね?」
娶ってまだ間もない綾太郎の寝床に入り込んで、びっくり赤面している連れ合いを抱きしめ、ようやっと安堵した縞政。
九も早々と寄合を抜けると自分が嫁いだ愛する男の元へ。
愛する意地悪お兄さんはぐうすか爆睡していて頬を抓っても全く起きる気配がない。
「むにゃむにゃ……次の賭けには……勝つぞ~……九ぉ……」
「全く。お目出度いね」
寝言を連発する意地悪お兄さんの額にそっと口づけを落とした九。
穏やかに閉ざされる夜もあれば爛れていく夜もある。
「あんっ……もっと……もっと突いて……」
「あ、あン……そこ、いいっ……もっと」
「はぁ……もっと……」
昼でも薄暗い林に囲まれた、おどろおどろしい、簡素な庵よりも大きな屋敷。
人の気配はまるでなく、カサカサ、コソコソ、何かが這い回る音がどこからともなく聞こえてきて、何とも不気味な。
破れ障子に閉ざされた、じめじめひんやり、ちっとも心休まりそうにない不快指数が半端ない寝床。
絡み合う二つの体。
淫らな律動を繰り返しては湿り気に富んだ音色を飽くことなく繰り返す。
「あ……!」
見境ない狂気男根で尻孔最奥を抉られて。
厚底靴のみ身につけた緋目乃は緋色の双眸を快楽に濡らして仰け反った。
「だして……?このお腹にたっぷり……種付けして……?」
稚児じみた愛らしさと花魁さながらの色気を兼ね備えた緋目乃は覆いかぶさる彼に乞う。
「緋目乃サマの神聖な腹、オレの子種で穢していいのかい」
普段と同じ出で立ちで緋目乃に覆いかぶさっていた這虫は問う。
片足を持ち上げられた松葉崩し、荒ぶる肉棒に乱暴に尻底を掻き回されて喘ぎながら、緋目乃は答えた。
「お前に穢されるの、ゾクゾクして好き、這虫」
一族きっての好色当主、欲求通りに種付けされると汗で艶めく全身を波打たせて悦んだ。
どっくんどっくん生抽入される大百足の種汁を貪欲尻孔で嚥下する。
包帯塗れの、無駄な贅肉が一切ない痩せ筋肉質の体を掻き抱いて、ギザ歯危うい唇に唇を合わせる。
溢れる唾液を絡ませて卑猥な舌先を密に結んでは、解き、また結んで。
人間以上に淫欲が旺盛な彼等の宴は留まることを知らない。
「緋目乃サマにご奉仕して差し上げないとねぇ」
ギザ歯が並ぶ口内に緋目乃のやんごとなき肉茎が呑み込まれていく。
もしあの鋭利な歯が食い込んだら、そんな身の毛もよだつ際どさに背筋をビクビク震わせる緋目乃。
乳白色の滑々した太腿に頭を割り込ませた這虫は舌上で過敏に跳ねる男根を吸い上げた。
じゅるじゅると粘つく唾液を過剰に音立たせ、喉奥まで招き、ざらつく舌でねっとり愛撫して。
強烈な快感と緊迫感に板挟みとなりながら、緋目乃は、絶頂した。
やんごとなき子種が大百足に飲み干されていく。
ビクンッ、ビクンッ、湿気た闇に震えるしなやかな体。
「もっと……もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっと、穢して、もっと」
仰向けになった這虫。
跨り、小刻みに大胆に腰をくねらせ、狂気男根を嬉々として貪る緋目乃。
「緋目乃サマの骨、とっても美味しそうだねぇ」
「大食共食いの這虫……だから皆に疎まれる」
「中指の一本、恵んでくれないかい」
「この指……? だめ……私のものは私のもの」
「お前のものも私のもの?」
「クスクス……そう……これは私のもの」
緋目乃は狂的に滾り続ける肉棒を自分の腹越しに愛しげに撫で上げた。
「満足させて? 這虫?」
「御意。緋目乃サマ」
もののけ、もののけ、褥でさわぐ。
十五夜お月様見て酒呑んで甘露甘露さわいで。
色欲地獄でまた酔い痴れる。
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