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静まり返った山の奥の奥。 夜半にむくりと起き上がると目の前に両手を翳してグーパーグーパー、顔をなでなで、体ぺたぺた。 「あ……危ねぇとこだった……」 体どころか心まで獣に……っつぅよりも。 自分が人間だったこと忘れかけてたわ。 古い馴染みのデキすぎ優男野郎、いけ好かねぇカマトト九九や、不思議と嫌いになれねぇ狸ども、生まれ育った村、家族のこと、それから。 「コンコン」 素っ裸の意地悪お兄さんが視線をやればすぐそばに白狐がちょこんと座っていました。 「よぉ、九、テメェのせいで俺ぁお前のことまで忘れかけてたぞ」 夢の中で自分がされたように意地悪お兄さんは美しい白狐を抱き上げます。 「でも、どうだよ、自分でこの体取り戻したぞ、俺の精神力すげぇだろ、なめんじゃねぇぞ、聞いてんのかよ、なぁ」 抱っこされて心地よさそうに身を委ねる白狐。 この世のものならざる別嬪ぶりに魅入ってしまう意地悪お兄さん。 ですから。 「さすが僕を虜にした人間だけあるね」 いきなり人型になったかと思えば逆に抱っこされて、ちょっと残念で、面白くなくって、でもやっぱりどきどきしちゃって、そっぽを向くのでした。 「正直、過去を忘れて無垢な狐になっていった君のこと、それはそれでいとおしかったよ……?」 「こンの……ッ性悪ッ……ぶっころすぞ……ッッ!」 「だけど。僕があやかしだってことも忘れて、本当に狐として見られていたのは……ちょっとばっかし淋しかったかな」 「うそつけッッ!交尾三昧好色絶倫だったくせにッッ!ぶっころすッッ!」

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