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誰かが呼んでいます。
怒涛の交尾攻めに疲れ果て、喉も嗄れ、瞼を開けるのも億劫な灰色狐は無視を決め込みます。
「おい」
畜生、うるせぇな。誰だよ。無愛想な声しやがって。
「無視してんじゃねぇよ。このブス狐」
ブス言うな。
「なんつぅザマだよ。情けねぇ。不甲斐ねぇ。それでも男か」
あんまりな言われように腹が立った灰色狐はやっと目を開けました。
そこにいたのは。
何とも目つきの悪い見るからに意地悪そうな人間の男でした。
「誰だよテメェ」
灰色狐がそう言えば彼はちょっと目を見張らせて、これみよがしに舌打ちし、堂々としかめっ面になりました。
「嫌な奴だな」
「お前に言われたかねぇよ」
「うわ。抱っこすんな、按配悪ぃな、ゴツゴツだ」
「うるせぇ」
今度は、男は、笑いました。
「しっかりしろよ、それでも……かよ」
灰色狐は男の腕の中で聞き覚えのある名前を耳にして何度もパチパチ瞬きします。
今の、誰の名前だ、よく知ってる奴のような気がすんだが。
ずっと前から知っている名前。
何よりも一番近い……。
あ。
こいつの名前じゃねぇか。
違う違う違う違う。
「俺の名前じゃねぇか」
灰色狐がそう言えば男は一段と嬉しそうに笑いました。
無愛想な面構えながらも愛着が湧いて止まない灰色狐に言いました。
「化けもんになろうと獣になろうと。俺のこと忘れたら承知しねぇからな」
やっと。
意地悪お兄さんは目が覚めました。
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