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17-意地悪お兄さんショック!!親ぎつねに捨てられて虎に嫁入り!?そんなまさか……?
そこは人里より離れた山の奥の奥。
「あ〜〜寒ぃ~~、今日はまた一段と冷えやがるな」
藁葺き屋根のおうち、板間の囲炉裏で暖をとっているのは意地悪お兄さんです。
あったかとっくり服に冬用作務衣を着込んで、焼き網で焼いた大好物のお餅を海苔で挟んではむしゃむしゃ、しんしんと底冷えする中、まったりタイムを一人満喫しているようです。
しかしまったりタイムもそう長くは続きませんでした。
「うおッ?」
いきなり何の兆しもなしに引き戸がガラリと開かれて、かっこ悪くびっくらこいた意地悪お兄さん。
「きゅるる」
やってきたのは九九……でした。
ちりめん柄の上衣に菫色の袴、お花を模した髪飾り、限界年下系愛されコーデを幼女風男子のナリであざとく着こなしています。
「お前なぁ、一声かけるかノックくらいしろ」
意地悪お兄さんに注意されてもガン無視、洋靴をぬぎぬぎし、囲炉裏を挟んだ向かい側にストンと座りました。
「コンコン。ぼくにもお餅おひとつ下さいな」
「使い古しのボロい手袋ならやってもよかったけどな。生憎だが、これぁ全部俺の餅だ」
「これがいい感じに焼けてるでしゅ。ぱくっ」
「チッ。がめつい奴め。何の用で来やがったんだ」
「この間の温泉しっぽり旅行は楽しかったでしゅか?」
「あ? ああ、まーまーだったかな……」
巨大虎三頭と温泉に浸かったりしたけどな。
「お餅、もういっこ、くださいな」
「残り全部もう俺の餅だ」
「ケチブス狐でしゅ」
「ぶりっこカマトト狐!」
ケンカしながらもいい感じにぷーっと膨れた餅を奪い合うように食べまくる意地悪お兄さんと九九でしたが。
トントン
「ごめんください」
何やら引き戸を叩く者がおります。
「うーん? また誰か来たのかよ? まさかまたお前のかーちゃんじゃあねぇよな?」
毎回ちょっとした災いを運んでくる九の元嫁、雪鬼女の夜叉小町の来訪かと、意地悪お兄さんはげんなりします。
「……今の声は……」
五つ目のお餅を平らげた九九が何やら神妙な様子で呟きます。
九九の異変にてんで気づいていない意地悪お兄さんは億劫そうに腰を上げ、土間へ向かいます。
「言っとくけどなぁ、もうアンタの色仕掛けには引っ掛かんねぇぞ?」
余裕で引っ掛かるくせに偉そうに吐き捨て、ガラガラガラッ、引き戸を開け放ちました。
そこにいたのは。
「徳の高いお坊様でも煩悩地獄にいざなう緋目乃の色仕掛け、お試しになりたいと?」
緋目乃でした。
代々、物の怪らを束ねる一族の当主。
緋色の双眸、少年とも青年とも見て取れる潤いに満ち満ちた艶肌、カラスの濡れ羽色の髪。
妖花さながらな美貌を誇る、詰襟にインバネスを羽織った緋目乃は「お前に用があって来ました」と意味深に微笑しますと。
厚底靴を履いたまんま板間に上がり込んできました。
「は!? おいッ、人んちに土足で上がり込んでんじゃ、ッ、もごご!?」
ムカッとした意地悪お兄さんが文句を言おうとしましたらば、ぴょんっ、素早く飛び上がった九九に不作法なお口を両手で塞がれてしまいました。
「緋目乃様、どうぞ、火にお当たりくださいな」
九九の言葉にフフフと笑って囲炉裏のそばに座った緋目乃。
まだお口を塞がれている意地悪お兄さん、顔を真っ赤にして鼻息を荒くして、後頭部にしがみついている九九を引き剥がしました。
「緋目乃様の前で野蛮な大声を出すなでしゅ」
「首折れるかと思ったぞ!!」
「お餅をお口に詰め込んで静かにさせるでしゅよ」
「じゃあ俺はお前の耳に詰め込んでや……」
自分達を愉しそうに見上げている緋目乃と目が合い、その扇情的背徳的オーラに意地悪お兄さんははたと口を閉ざしました。
やっぱどっからどう見てもエロそうなガキにしか見えねぇ。
「けっ。俺に用だって? 九は留守だぞ?」
「緋目乃はお前に用があります」
「さっきから気になってんだけどよ、自分のこと名前呼びかよ? お前さん、本当に災いとか祟りを招く物の怪当主なのか?」
前にこっ酷くこき下ろされたことがある意地悪お兄さん、チンピラの如くニヤニヤしながら緋目乃を見下ろしていたらば。
すっぱーーーーーーーーーーーん
懐からにゅっと取り出した巨大ハリセンで九九に引っ叩かれ、脛を蹴っ飛ばされてバランスを失い、どっすーーん、倒れ込みました。
「とまれかくまれ」
九九の過激な叱咤に満身創痍、囲炉裏のそばで打ち震えている意地悪お兄さんに、緋目乃は言いました。
「お前には虎に嫁いでもらいます」
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