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第15話 雛多の弟。

優多は少しの沈黙の後、一言呟いた。 「いないよ。」 「いない⁈本当に相手が居ないのか⁈」 「いないって言ったろ。」 「そ、そうか。いないんだな。」 樹季は優多の表情と口調から、無理に聞き出すのは得策では無いと判断し、一旦引く事にした。 「ご馳走さま。俺お風呂入ってくる。」 「ああ。ゆっくり温まってくるんだぞ。」 優多が風呂に向かった後、樹季は心の中で叫んだ。 いない?いないって、どうゆう事だ! 相手が居ないのに、うなじにどうやってキスマークを付けるんだ! 相手が居ないなら、身体中から漂わせている、その色気はなんだ〜! 樹季は軽いパニックに陥ったが 直ぐに平静を取り戻し 「ふっまぁ良い。俺は優しいお兄様だからな。今日のところはこのぐらいにしておいてやるか。」 負け犬の遠吠えの様な台詞を吐きながら、下げた食器を洗いにキッチンへと向かった。 片付けを終え、コーヒーを飲みながらひと息つく。 ふと、家の中が静かな事に気が付き、周りを見回したが、優多の姿は無かった。 寝室のドアを開けるとベッドの上に優多の姿を見つけ、樹季は安堵した。 ベッドに近寄り、彼に布団をかけて、静かな寝息を立てている優多の顔を眺める。 自分も優多の隣に横たわり、愛らしいその寝顔を見つめ、自然と笑みが溢れた。 樹季は手を伸ばし、優多の髪を指で優しくすいた。 優多は 「。んっ。。」 と一言発し、樹季に抱きついて来た。 彼に抱き締められた途端、樹季は心臓が激しく波を打つ様な感覚に襲われた。 「。。。る」 優多は相手の名前を呟いた様だったが、樹季は動揺していた為、聞き取れなかった。 只、優多が抱きつきたい相手が、自分では無い事だけは確かだった。 「お前が雛多(ひなた)の弟じゃなかったら、俺にとっくに襲われてるところだったぞ。。」 優多の耳元でそっと囁き、額にキスをした後 樹季は優しく彼を抱きしめ、眠りについた。。

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