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第1話 三崎×ペペロンチーノ

 一人の男がまだ剥いていないニンニクを片手に持ちながら、とてもじゃないがニンニクに向けるとは思えない淫靡な視線を当てながら語りかける。 「クックッ、自分で皮も剥けないなんて未熟なニンニクだな……これから俺がそのお子さまな皮を剥いて大人のニンニクにしてやろう」 「やめて、それだけは……」  ちなみにニンニクは喋っていない。今返事したのはこの場でニンニクを片手に語りかけている男――三崎有吾である。つまりは一人二役である。 「やめろッ!! 俺のニンニクに手を出すんじゃねぇ!」 「安心しろ、お前も直に俺色に染めてやるよ、ベーコン」  三役であったようだ。とても芸達者な人である。 「やめろベーコン! もう何をしてもどうにもならんのだ」 「そうです、私たちはもう彼の手で弄ばれる運命にあるのです。諦めましょう」 「鷹の爪の兄貴……スパゲッティーニさん(1.5mm)まで……」  どうやら三崎という男は全ての食材の役をやるつもりらしい。ちゃんと一つ一つの食材のキャラも変えて演じているところに拘りが見られる。  ちなみに三崎が居るのは職場――リストランテ『ポモドーロ』のキッチン。しかもオープンキッチンなので同僚と客には丸聞こえである。 「調教開始だ」  サドイズム全開の笑顔を浮かべながら、三崎有吾のどS調教(クッキング)は今始まった――

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