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第17話

はーっ、はーっ、と耳元に熱い息がかかった。その吐息さえ気持ちいいと思ってしまうことが、心底気持ち悪かった。 「ん、く…やだ、あぅ…」 ずるりと体内に侵入してきたそれに、身体は間違いなく歓喜している。 αの精を受けようと嬉々としてその熱を包み込んでいた。 (汚い) 嫌だ嫌だと言っているのは口だけ。 その口でさえ、気を抜いたら早くしてと強請ってしまいそう。 言葉もなくガツガツと後ろから打ち付けられて、その度に意味を持たない声が漏れた。 「はぁっ、あ、あ、…あぅっ!ふ…」 (汚い) 口から漏れる声は誰がどう聞いても甘い喘ぎだ。 これを聞いて誰が合意じゃないだなんて思うだろうか。 (汚い…) 滴る汗と共にぱたぱたと涙が床に落ちたその次の瞬間、ガッと鈍い音がして首筋に衝撃が走る。 恐る恐る、ほんの少し振り返ると。 目を血走らせた佐藤が首輪の上から水樹の項に噛みついていた。 「外せ…水樹…」 地を這うような声にぞくりと背筋に悪寒が走って、発情期の熱に浮かされた頭に冷水を浴びせた。そして少しだけ冷静になった水樹は恐怖に慄いた。 もし、もしも首輪をしていなかったら。 サァッと血の気が引いて、水樹は片手で身体を支え、もう片方の手で首輪をしっかりと押さえた。 どうせなら。 どうせなら、あの人に噛まれたい。 今迄ただの一度も特定の誰かを願ったことなどない。けれどその時確かに、水樹は彼の顔を思い浮かべた。 「だめ、だめ…やめてせんぱい、ぃあ…っ」 懸命に首を振る水樹に何を思ったのかはわからない。本能に促されるままだったのかもしれない。 佐藤はガジガジと執拗に首輪を噛んで、それが水樹には首輪を壊そうとしているように思えて。 壊れるわけがないのに、それだけはなんとしても避けなくてはと首輪を握りしめる。しかしそれも奥を穿たれる度に脳天を突き抜ける快感が邪魔をして、指先から僅かに力が抜けていった。 「はっ、んぁっ!あ、やめ、…っ…」 外してしまえ、噛まれてしまえと。 本能はそう叫んでいた。 αをモノにしてしまえ、と。 それを振り払うかのように嫌々と首を振れば、脳裏にちらつく美しい顔。 次いで浮かぶのは、その隣を許された弟の姿。 「やめ、や、あ、ああっ!?」 ググッと後孔が拡がったのを感じた。 直後に熱い飛沫を体内に感じて、身体が喜びに震えた。同時に、心は哀しみに暮れた。 そしてふと思う。 (なんで、こんなに嫌なんだろう。) 妊娠さえしなければ。 項さえ守れれば。 Ωだし、どうせロクな扱いをしてもらえないのだから、最低限だけ守れればなんでもいいと思っていた。そう思わなければ生きていけないのだろうと。 発情期の時なんて、それこそ誰でもいいからこの燻る熱をなんとかしてほしいとさえ思った。 それが今はどうだ。 (水無瀬………) 彼でなければ嫌だなんて。 αの精を受けたおかげで徐々に落ち着きを見せ始めた発情と共に、ゆっくりと意識が遠のいていった。

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