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夢中で水樹の秘孔を犯しながら頸を何度も噛んだ。頸はもう血だらけでいくつもの噛み跡が付いていた。無理な大きさのものを受け入れた秘孔からも、蜜と混じり合ってとろみのある赤い液体が流れ出ていた。 「んッく…ひっ…痛い…んっ!」 叫ぶ体力が尽きたか、それとも抵抗する気力も無くなったのか、水樹は大人しかった。時折誠司の熱の鋒が前立腺を掠めると甘い声を上げたが、快楽より痛みが優っているのは見て取れた。 誠司の方は、秘孔が裂けたおかげで随分と締め付けが楽になり、天上の快楽を得ていた。 身体ばかりの快楽だった。 「も、やめてよぉ…ッ!いた、痛い…」 「大丈夫、すぐ良くなる…」 「うそ、うそぉ…もうやめて、痛い…」 「水樹…っ!」 「んぁッ!や、いやぁっ…」 そして限界を迎え、誠司は水樹の中に放った。愛しい運命の番の中での長い長い射精は、極楽浄土にいるかのような快楽をもたらした。 ぐすぐす泣き続ける水樹の声すら、天使の合唱のように聞こえた。 それを遮ったのは、小さな物音。 「…水樹…?誠司叔父さん…?何して…」 聞きなれない物音と水樹の泣き声を不審に思ったのだろう龍樹が、襖を開けてこちらを凝視していた。 その手には分厚い古い本。これだけ水樹が泣き叫んでも今まで来なかったのは、龍樹が大好きな本が積み上がる離れの蔵にいたらしい。 水樹とよく似た顔が驚愕に染まり、そして徐々に憤怒を表し始める。 「水樹に、何してんだよ!!」 勇ましい言葉と裏腹に、その瞳には怯えも見て取れた。 気の弱い龍樹が、大人のαである誠司に大声を上げて、大切な兄を守ろうと手にした分厚い本を振りかざす。それが誠司に直撃する前に、誠司は力一杯龍樹を突き飛ばした。 小さな身体は簡単に吹っ飛んで、誠司の机に打ち付けられた。 「…邪魔すんなクソガキ…お前に用はない!!」 心にもない罵声を浴びせ、誠司は痛みに呻く龍樹を見下ろした。 龍樹は気丈にもすぐに体制を整えて再び誠司を睨め付ける。その純粋な瞳に、途轍もない恐怖心を覚えた。 やめてくれ、どうか向かってこないでくれ。 でないと何をしてしまうかわからないから、お願いだからそのままここから逃げ出して、出来たら誰かに助けを求めて俺を止めてくれ。 切実にそう願っているのに、紛れも無い本心なのに、誠司の身体は言うことを聞かない。 水樹が産まれて9年。漸く発情期を起こし手に入れることが出来た自分だけのΩを誰にも奪われまいとαの本能が邪魔をして、果敢に立ち向かってきた龍樹を痛めつける。 「やめて…やめてよ、龍樹が死んじゃうよ!!」 悲痛な水樹の叫びを遠い意識の中で聞きながら、誠司も泣いていた。 ─── 真っ白な壁紙。天井。木目の手摺。古びた長椅子はクッション性などとうに失われてぺしゃんこだ。 薬品の匂いが充満する病棟の中で、誠司は1人ぼんやりと座り込んでいた。 ついさっきまで、この腕に水樹を抱いていた。 ついさっきまで、この手で龍樹を殴っていた。 正気を取り戻した誠司はすぐさま救急車を呼び、救急車は2人を乗せて去っていった。付き添いたかったが、自分は加害者だ。同じ車内に乗ることは叶わなかった。 水樹は秘孔の裂傷以外に怪我はない筈だが、龍樹は額、恐らくこめかみからかなりの出血をしていたし、腕はおかしな方向に曲がっていた。他にも怪我をさせただろう。 誠司は状況を知ることも出来ず、ただそこに座っているしかなかった。 その状況が打破されたのは、誠司が病院に着いてから随分経ってからだった。 静かな足音。 目の前に仕立ての良い皮靴が現れて、覇気のない顔でそれを見上げると、静かな怒りで人相を変えた兄の姿があった。 「兄ちゃ…」 「水樹はΩだったよ。そんなこと報告しなくても、お前が一番よくわかっているだろうけど。」 庸の声は淡々とした小さなものだった。その声に温度は少しも感じられない。いっそ冷たさを感じた方がまだマシだったかもしれなかった。 「龍樹はαだった。こめかみを5針縫った。肘はひどい折れ方をしていたから当分使えない。もう一度手術が必要かもしれない。肩も外れていたし、肋骨も2本折れていたよ。肺に刺さらなかったのが幸いだった。」 庸は誠司を真っ直ぐに見つめたまま温度のない声で淡々と語った。 視線を逸らすことが出来なかった。阿呆のように口を半開きにして、ただ自分の罪を浴びた。

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