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第62話
「一週間あげる。俺は今日から一週間、いつも通り普通に千世にぃに接するから、その間に考えておいてよ。俺と恋人になれるかどうか」
「い、一週間?」
「うん。また同じこと聞くから、次はちゃんと答えてね」
幼い子供に話しかける時のような笑顔で言われ、既に泰志の『いつも通り』が始まっていることを知る。
「答えるって、何を……?」
「決まってるじゃん。俺と恋人になれるかどうか、だよ」
「――恋人……」
ストレートな言葉が、千世の退路を奪っていく。
彼は千世がはっきりと是か非か伝えない限り諦めない。それが泰志。弟だ。
(でも、僕には廉佳さんがいるから)
泰志の気持ちには応えられない。そう言わなければならないのに、唇が震えて上手く喋れなかった。喉元まで出かかった言葉を何度も飲み込んでいるうちに、下の階から祖母の声がする。
「ちーちゃん、泰ちゃん。晩ご飯できたわよー」
「ほら、ばあちゃんが呼んでる」
そう言い残して泰志は部屋を出て行ってしまった。
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