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第63話
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ある夢を見た。
夏空の下、子供が遠くで泣いている。あの声、あの姿。見覚えがある。
泰志だ。
近付いてみるが、幼い彼はこちらに気付くことなく泣き続けていた。
(泰志がこんなに大泣きしてるということは、きっとあの時 の……)
両親が亡くなった九年前の夏、泰志はまだ八歳だった。だがこの時千世は十歳になったばかり。まだまだ子供だ。
それでも大泣きする弟を見て、自分がお兄ちゃんなんだからしっかりしないといけない、と幼いながらに責任感を抱いていた。
『父さん、母さん……何で、しんじゃったの?』
夢の中の泰志が言う。そこへ十歳の千世が、どこからともなくやって来た。
『泰志、泣かないで。ぼくがそばにいるから』
この頃はまだ千世の方が背が高かったから、泰志の頭をぽんぽんと撫でて宥めようとしていた。父親がよくそうしてくれたみたいに。
『千世にぃはさびしくないの?』
「さびしい……淋しいよ。でも泰志がいる。泰志にもぼくがいるから、大丈夫だよ』
兄として、弟の前で涙を見せまいと必死だった。本当は思いっ切り泣きたいけど、それは弟にだけ許される。そんな気がしていた。
『ね、泰志。笑おう。お父さんもお母さんも、いつも笑ってたでしょ。ぼくたちが泣いてたら、二人とも安心できないよ?』
『千世にぃ――うん……!』
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