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第64話

 泰志は泣きながら笑う。千世も表情は笑っていた。心の中ではひっそりと啼泣(ていきゅう)しながら。 (この時の僕、随分強がってたなぁ)  親を亡くして泣くのは当然のことで、誰かに怒られることなんてない。しかし、無垢な千世はあまりにも無知だったから、ここで強がることしかできなかったのだ。 (でも、そんな僕を廉佳さんが救ってくれたんだ)  二つ年上の廉佳は、千世からすれば小さな大人だった。頼りがいがあって、いつも千世の一歩も二歩も先にいる。それでいて追いつけなくなったらそっと手を差し伸べてくれるような、かっこいいお兄さんだ。  いつの間にか場面が切り替わっていて、泰志の姿は消えてしまっていた。その代わり千世が独り、公園のベンチでうずくまっている。 『はぁ……』  溜息をつく、という言葉の本当の意味を知ったのはこの時かもしれない。暗い気持ちを吐き出すように、呼吸をするよりも先に大きく息が漏れる。 『千世ー、そんな所で何してるんだ?』  中学一年生だった廉佳がこちらに向かってくるのが分かる。夢の中なので客観的に見られる分、今とは違う彼のあどけない姿に懐かしさと親しみを覚えた。 『今日は泰志と一緒じゃないのか? 珍しいな』 『うん、ちょっとね……廉にぃはどうしたの?』 (そっか、まだ廉佳さんのこと廉にぃって呼んでたっけ)  夢とはいえ、自分がそう呼んでいるところを見ると、全身がむずむずするような違和感が訪れる。

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