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第65話
『俺は学校の帰り。お前がなんか淋しそうだったからさ、気になって』
『そう……ありがと』
憧れのお兄さんは大切な幼馴染みで、千世の中でとても大きな存在だった。だがそんな廉佳が隣に座っても千世の心は晴れない。俯いたままで形ばかりの礼を言うと、彼はすぐ異変に気が付いたらしい。
『もしかしておじさんとおばさんのことか?』
『!』
廉佳とは家族ぐるみで仲良くしていたから、彼も当然千世の両親のことは知っている。葬儀にも来てくれた。
『――廉にぃには、関係ないよ。』
彼をこんな風に冷たくあしらったのはこれが初めてだった。言った後で、その素っ気なさを反省していると廉佳の手が千世の頭に乗せられる。
『お前、無理してるんじゃないのか?』
『そんなこと、ない……だってぼくお兄ちゃんだし』
『それ! それだよ』
突然大声を出されて千世は肩をびくっと震わせた。何が? と声には出さずに首を傾げる千世の頭を、小さな手がぐしゃぐしゃとかき回した。その感触は、両親が亡くなってから千世がずっと求めていたもので。
『俺一人っ子だから、お兄ちゃんってのを完全には理解してやれないんだ、ごめんな。でも生まれた時からずっと一緒にいる俺には分かる。お前は今、頑張りすぎてる』
『でも、お兄ちゃんが泣いたら駄目でしょ? 泰志だってぼくのこと頼れなくなっちゃうよ』
『泰志の前で泣けないなら、俺の前で泣けばいいんだよ。俺は千世より年上なんだから、気の済むまで甘えてくれ』
「――!」
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