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1.【 power 】
スマートフォンのフリック入力なら、話すのと変わらない速さで打てる。
だけど、高校を卒業した後の社会では、パソコンのキーボード操作ができないと何かと不便なんだそうだ。
進学しても就職しても、ブラインドタッチぐらいできないと、使い物にならないらしい。
キーボードのfとjに左右の人差し指を置く。ここがホームポジション。
大抵の機種でこのキーには凸凹がついていて、目線を下げなくても直ぐに見つかる。
打ったら、指をホームポジションに戻す。繰り返して無意識に指先が突起を覚えるころには、見違えるように効率よく入力できるようになった。
練習を兼ねて、自分の進路希望の回答をパソコンで作成して送信すれば、授業は終了。
小さなステップだけど、またひとつ大人に近づく。
制服に身を包む日々も、あと少しでサヨナラだ。
春からは、今までとは違う生活が始まる。
この先どうなるか、期待と不安が押し寄せるけど、神様に縋るよりも自分の手で切り拓く方が、俺の性に合っている。
やりたい事はある。大学に進学して、勉強も新しい人間関係も新しく始めたい。
そのためにできる事を、悔いがないようにこなしていくのが今の使命。
大切にしたい人との出逢いにも期待している。
中学、高校と、それなりに恋愛を経験したけどね、俺が惹かれるのは全部同性。
友達には言い辛くて、無理して紹介して貰った女のコと付き合ってみたりもしたけど、どうしてもダメだった。
色恋は無理やりすることではない。成り行き次第で。
……ただ、眼鏡フェチの気は有るかも知れない。黒縁のスクエア型を見かけるとドキドキする。
今だから言い切れる。相手は男性だったけど、あれが初恋そして初失恋だったと。
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