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第1話

(光語り) 「ひーくん、まだ?まだ着かないの?」 「まだだ。あと少し」 「俺、もう歩けないよ………ひーくん……」 後ろで(そら)が息を切らせながら俺の名前を連呼している。野球部で鍛えてきた俺の体力には到底並ぶ訳はなく、俺がしょうがなく差し出した手を握りしめて、空は上り坂を踏み出した。 大学1年の夏休み、地元の有名な小島へ同級生の空と来ている。1周わずか50分程の小さな島は、小高い丘に木が生い茂ったような、ちょっとした山になっていた。てっぺんには小さな神社があり、俺たちはそこを目指している。 誘い主の空はもうバテていた。夏真っ盛りの季節は暑すぎるのか、他に観光客もいない。耳鳴りのように鳴り続ける蝉の声と、むせかえるような湿気に包まれた山道はもう少しで終わりそうだった。 「ほら、あと300メートルだって」 「うん……分かった」 首からかけたタオルで汗を拭く空の耳には大ぶりのピアスが揺れていた。白色に近い金髪も、派手なTシャツも、空には似合ってない。控えめな格好で充分引き立つのに、全身で存在感をアピールするような見た目は彼に不必要だ。 木のトンネルをくぐり抜け、間もなくして一気に視界が開ける。 容赦なく真夏の日差しが照りつけていた。 だらだらと額の汗が頬を垂れて、思考が夏に埋め尽くされていく。 暑い、暑い、暑い。 「眩しい……でも気持ちいい!!やっぱり登ってよかった、ひーくん、休憩しよ」 「………ああ」 さっきコンビニで買ってきた飲み物を空に手渡した。俺たちは小さな社の境内に座り、並んで飲み始める。 風向きが急に変わって潮の香りがしたと思ったら、空が小さくクシャミをした。 俺は隣に座る小さな身体へ視線を送る。 空とは小学校からの付き合いで、気の合う仲でよく遊んだ。同じ高校へ進み、毎日一緒に電車で通った。野球部だった俺の帰りを待ってくれた時もあったし、休日が合えば買い物や映画にも行って、俺たちは仲の良い親友だった。 ところがちょうど一年前の高3の暑い夏の日、空から突然の告白を受けて大きく変わってしまう。 『ひーくんのことが前から好きだった』夏祭りの日に、真面目な顔で空が俺に言ったのだった。

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