2 / 5

第2話

(光語り) 『ひーくんのことが前から好きだった』と震える声で伝えてくれた空に『気持ちに応えることはできない』とよく考えずに軽い気持ちで断った。互いに受験を控えている身で、部活を引退して今から本格的に打ち込もうとしていた時だったし、恋愛について考える心の余裕が無かった。 『それでも友達でいてほしい』と懇願され、俺はそれを了承した。またいつもの関係に戻った筈だった。表面上は何も変わらなかったが、俺の知らないところで空が変わっていく。 2学期が始まり、空の見た目が明らかにおかしくなった。髪の色が明るくなり、ピアスをするようになる。校則が緩い学校だから、周りの友人からは好評な空のイメージチェンジも、俺は複雑な思いを抱いていた。 俺のせいなのだろうか……それとも何かが空の身にあったのだろうか。 空の態度は相変わらずだったし、引け目もあったので触れることができなかった。時折、嗅いだことのない甘い花のような匂いを漂わせてることも、俺の知らない空が確実に存在することを告げていた。 小高い島のてっぺんからは、ここへ繋がる橋と、引き潮の水面を眺めることが出来た。キラキラと輝く波が波状に広がっている。上空からはトンビの鳴き声が降っていて、時折強く吹く潮風のせいか身体が酷くベタついていた。 そして俺は、隣でジュースを飲む空へ視線を送る。 「ん?ひーくん何?このジュース美味しいよ。交換しよっか」 「あ……あぁ……」 視線に気付いた空が微笑み、丸い澄んだ瞳で俺を見る。ペットボトルを交換すると、空は躊躇わずに口をつけた。 大学生になり、益々中性的になった空は自らの見た目を武器に、今まで以上の人気者になった。誰から告白されたとか、コンパで空狙いの女子同士が掴み合いの喧嘩をしただとか、浮いた話を聞くたびに心が軋むように傷んだ。 俺はとても後悔していた。 空を振ったことに。 何ともなかった気持ちが1年かけて、ゆっくりと空へ傾いた。手の届かない場所へ行ってしまった彼を、掴み損ねた星屑みたいに指先を思いっきり伸ばして触りたくなっていた。 手に入らないものほど執着してしまう。 あの時の気持ちは残っていないのか、どういう心持ちで告白してくれたのか、問い質せたらどんなに楽だろうか。口下手な俺はただ見ていることしかできなかった。 蝉が煩く鳴いている。 空には飛行機雲が長い線を引いていた。

ともだちにシェアしよう!