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第3話
(空語り)
こんなにも上手くいくとは思わなかった。
隣にいるひーくんは、何か考え込んでいる。あまりにも思い通りに事が運ぶものだから、もうちょっと焦らしてもいいかなとさえ思えてきた。頭上の飛行機雲と甲高い声で鳴く鳥を大きく仰ぐ。鳥の名は『とんび』だと、ひーくんがさっき教えてくれた。
ぴーひょろぴーひょろ、うるさい。
俺は去年、幼馴染のひーくんに告白して呆気なく振られた。それはそれは世界が終わるような悲しみに包まれて、模試の志望校判定がBからEに落ち、ご飯が喉を通らなくなって5キロ痩せた。
そんな状況に甘んじてる自分へ嫌気が差し、ひーくんを見返してやろうと一大決心をした。
まず見た目を変えて、そして、経験も積むことにした。経験っていうのは勿論、恋愛偏差値のこと。うんと年上と付き合って、セックスを教えてもらった。
気持ちが傾くことは無かったけれど、会社員のノガミさんには随分とお世話になった。恋愛の真似事を教えてもらって、なんと最後にはノガミさんを掘ったりもした。
そこで気付いたんだけど、俺はどうやらタチらしい。挿れられるより、断然挿れたい。体付きや見た目からネコっぽいと言われる自分は、すべてに反して真逆のタチだという、思わぬ収穫を得た。
そして、ひーくんを諦めきれない俺は振られたにも関わらず、未だに友達のような関係を続けている。いい加減気にしない体を装う自分に疲れて、見込みのない恋を諦めようかと腹を括った時、ひーくんの態度に変化が現れたのだ。
明らかに俺のことを気にしている。
コンパや大学の噂までも確認してきて、自惚れでなければ視線までもが俺を追っている。
間違いなく気にされている。
何がひーくんの身にあったかは分からないが、心の中でにんまりした。ノガミさんから貰ったトワレを多めに纏い、とことん“無邪気な空”を演じた。多分、ひーくんは天然に弱い。
野球部で鍛えた身体はさぞかし美味しいに違いなく、逞しい腕に引っ張られて島を登る度に、ひーくんの身体に涎が出そうだった。
ああ、出来ることならひーくんに挿れてみたい。
「ふー、あちー、暑っつい………」
パタパタと手で仰ぎながら、Tシャツを脱ぎ、俺は上半身裸になった。
この島もさることながら、今日は一段と暑い。じわじわと地面から焼かれて真っ黒になりそうだった。
「…………おいっ、こんな所で脱いだら蚊に刺されるぞ」
「へーき。暑いのよりマシだよ」
それにこんな海辺の小さな島には蚊なんていない。神社の境内で、セミの合唱を聞きながら暫し涼んでいるフリをした。
さてと。
そろそろ、ひーくんの真意を確かめようかな。
直球で聞いて否定されたらそれこそ二度と立ち直れない。
勿論、ひーくんの口から言ってもらうのだ。
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