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第4話
(空語り)
「ひーくん、大学どう?もう慣れた?」
「どうって……お前こそ忙しそうに見えるけど、どうなんだ?」
俺達は違う大学だ。ひーくんは体育系で俺は医療系だから、進路は全く別になる。しかも取らなければならない単位が多く、授業は毎時間みっちり入っていた。
でも、ひーくんが言いたいことは多分そういうことではない。
「ちょっと忙しいかな……友達もいないからつまんないよ」
友達がいないのは本当だ。表面上の馴れ合いだけで、深い部分の友情は存在しない。
隣にいるひーくんが、俺とどうにかなってくれたら全てが解決するのにと、ひーくんに軽く体重をかける。そういうことをしても、重いから退けと言われない。身体の作りが俺よりも一回り大きくて、どしんと構えている姿が好きだ。
「空は人気者だって聞いた」
「それはガセネタだと思う」
「コンパも沢山やってるって、女子にモテてるらしいじゃないか」
「なあに、ひーくんも誘ってほしいの?」
「いや、別に……そんな訳ではなくて……」
「じゃ、なに?オンナノコなんて煩わしいだけじゃん。ひーくんが希望するなら、いっくらでもコンパ開いてあげるよ。きっとひーくんならモテるでしょうに」
女という人種はひねくれていて、打算的で、あまり好きではない。察してほしい欲が強すぎてこっちが先に疲れてしまう。
それにしても、ひーくんってば直球でなかなか来ない。焦らず静かにこちら側へ引き込むのだ。自らで飛び込めば、後にも先にも人のせいにはできないから覚悟が出来るのに。
絶対に時は俺へ向かって流れてる。
追い風を信じようと、俺は湿った潮風を胸いっぱい吸い込んだ。
「それに、この間、告白されてすごく面倒くさいことになったから、人気者と言われても全然嬉しくないんだよ」
「えぇっ…………それでどうしたんだ。付き合ったのか」
突然、ひーくんが俺の肩を掴んだ。裸の肩に触れる手が熱く、二人の距離が更に縮まった。
「どうしたと思う?確かに可愛い子だった気がする。当ててみて」
俺はありったけの余裕を掻き集めて、ひーくんへ笑顔を見せる。唇は弧を描くように、瞳はできるだけ潤むように。心臓はバクバクしてるけど、蝉の声に消されて彼には聞こえまい。
「空はさ…………」
「うん」
「…………お、俺のこと、好きって言った時、どういう、気持ち……だった?……うまく、言えない……あのさ、俺のこと、どう思ってる……今……」
ひーくんが真っ赤な顔をして俺に言った!!
欲しかった言葉には程遠かったけど、長い時間をかけてようやく実ろうとしている恋へ、愛しさを込めて両手を伸ばした。
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