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第36話 あの日の『好き』を言わせて

「アキ、深呼吸して、そうしないと奥まで入らないよ」 「あ……ッッ!!」 今までは正常位やバック挿入されていたが、今回初めて対面座位で突かれて、今までとは違う感覚に榛名は上手く息が出来なかった。いくら欲しいと言っても、指で慣らしていても、霧咲とアナルセックスをするのはまだたったの三回目だ。 しかも今夜は以前のようにアルコールでふわふわしてもいないし、キシロカインを使ってるわけでもない。はっきり言って痛かった。それと、内臓がせりあがってくる感覚が苦しい。 「うぅッ……!」 ふいに涙が溢れてくる。それでも榛名は、抜いてくれとは言わなかった。それだけは、絶対に言いたくなかった。 「アキ、顔をこっちに向けて」 「ん……っ!」 霧咲に顔を両手で挟まれて、キスをされた。榛名は口を開けていたので舌の侵入は容易く、激しく舌を絡め取られて唾液を交換しあう。 「はッ、んちゅ、チュプッ」 そしてそのまま、どさっとベッドに倒された。圧迫感が薄れて、少し呼吸が楽になる。 「ハァッ……ハァッ……」 「ほら、力を抜いて。無理させてごめんよ」 「はぁッ、……あー……」 優しく頭や顔を撫でられて、呼吸が落ち着いてきた。目の前には、少し心配そうな顔で自分を見ている霧咲の顔がある。榛名は、そっとその綺麗な顔に言葉もなく触れた。 (……らしくない顔、してる……でも……) 「まだ苦しい?バックがいい?」 「ううん……顔、見ながら、したいです……」 あまり見ることのない不安げな顔の霧咲が可愛くて、榛名は涙を流しながらも微笑んでいた。 「……ッ」 「霧咲さん……?んあッ!!」 急に霧咲が腰を動かし、ゆっくりと確実に榛名を犯し始めた。 「あっ、ァァッ、あ、や、んやぁっ!」 霧咲は何も言わずに榛名の腰を掴み、激しく腰を前後に動かしている。その表情には余裕は感じられないが、榛名の反応はしっかりと観察していた。榛名の声や表情が痛みを感じていないとわかると、いっそう腰の動きを速める。 「アキ、アキっ!」 「ひぁっ、あっ!きりさきさ……!」 「アキ、気持ちいい?ちゃんと感じてる?」 霧咲の問いに、榛名は激しく頷く。霧咲は安心したように榛名をギュッと抱き締めると、いっそう強く腰を動かした。ローションと体液でグチャグチャになったソコが卑猥な水音を立てて二人を煽る。 「ハァッ!あ!ああ!」 「アキ、好きだよっ!」 榛名も霧咲の広い背中に抱きついて、必死で霧咲をナカで感じていた。 (きもちいい、きもちいいっ!) ずっと待ち望んでいたもの。挿入されたときは苦しくて痛みもあったが、今は全てが快感に変わっている。もっと奥まで突かれたいと思い、足も霧咲の身体に必死に絡み付けた。 もう、全身余すところなくくっついている。榛名は自分の身体が柔らかい方で良かった、と思った。 「っアキ、そんなに締め付けたら動けないよ……!」 「あんっ、そのまま、そのままグリグリしてっ!奥、もっと奥に欲しいからぁっ」 「しょうがないな……!俺としては思いっきり君のナカを突きたいんだけどね!」 「んあぁっ!!はっ、ぁあん!」 霧咲が大きく腰を動かし、榛名のナカを強く抉る。雁首がナカのイイトコロを刺激して、榛名は目の前がチカチカしてきた。 「も、イク……っ」 「っもう?」 「イキたいっ!あ、イカせてっ……!」 「じゃあ、ちょっと腕緩めて?」 激しく呼吸を繰り返し、気持ちよすぎて生理的な涙を流しながらも、榛名は霧咲に従って腕の力を少緩めて顔を見合わせた。お互いの息が激しく混じりあい、二人は数秒間見つめあった。 イキそうな寸前で腰の動きを止められて、榛名は寸止めを食らった気分だ。けれど霧咲が少し困ったような顔で自分を見つめてきたので、困惑しながらもちゃんとその目を見返す。 「っ……きりさき、さん?」 「本当に君は……なんて可愛いんだろうね」 「……っ」 じっと見てると思ったら、そんなこと。自分を可愛いなんていうのはこの人くらいのもので、とにかく今は至極どうでもよくて……早くイカせてほしかった。 「クスッ、腰が揺れてるよ。いやらしいな」 「だって早くっ……あ、ァァッ!!」 いきなり突き上げられて、脚が跳ねた。 「あ……あ……っ」 「君が好きだよ」 「あ……っおれも、俺も貴方が好き!」 (あ……好き、って初めて言った気がする) 「……今度は流されてないよね」 「ひぁっ、あっ!んあぁっ!」 (違う、初めてじゃない。前にも言った。霧咲さんが好きだって……初めて会った夜、同じように抱かれながら) ギリギリまで引き抜かれて、一気に突き上げられる動作を繰り返される。霧咲もそろそろイキそうでラストスパートをかけていた。 榛名は……既に、霧咲の腹に白濁を吐き出していた。 霧咲はあの日の夜、榛名が『好き』と言ったのは単に流されて言ったのだと思っている。榛名も以前突っ込まれて、そう霧咲に言い訳していた。しかし本当は違う。 霧咲が榛名に一目惚れしたと同じように、榛名だってそうだったのだ。だからあの日べろべろに酔っていたとはいえ、一切抵抗せずに霧咲に付いて行き、そして抱かれた。 けど榛名は同時に、ひどく悲しかった。もう二度と霧咲に会えないと思っていたから。 こんなに好きなのに。やっと好きな人に初めて『好きだ』と言えたのに。自分の中の空虚な部分が、満たされた気がしていたのに。 榛名はあの日、まるで失恋したような気持ちで霧咲に抱かれていたのだ。 「うっ……ヒック……すきっ、霧咲さん、好き……!」 「ん……?」 霧咲も榛名のナカに精を吐き出して、二人で息を整えていた。すると繋がったまま、榛名が突然泣きながらそんなことを言い出した。霧咲は少し驚いたが表情には出さず、顔を優しく撫でた。 「どうしたの?いきなり。嬉しいけど」 「好きっ……好きなんです……っ」 「俺も、君がとても好きだよ」 「……ううっ……!」 あの日のことを思い出して榛名は泣いていた。あの時、素直に『また会いたい』と言ったところで霧咲が会ってくれる保証もなかったし、何より断られるのが恐かった。 だから榛名は蓋をしたのだ。霧咲のことが好きという気持ちに。 もう二度と会うことはないのだと自分に言い聞かせて……。 「すき、好きです……っ、霧咲さん」 そして今、その蓋がこじ開けられて一気に溢れ出した。榛名は泣きながら、霧咲に『好き』と繰り返す。 「……何をそんなに我慢していたの?」 そんな榛名の気持ちを知ってか知らずか、霧咲は優しくそう言うと榛名の顔にキス降らせて、こどものような熱い涙を舐めた。 「ヒッ、ひうっ、ぐすっ……」 「そんなに泣いて……きみは俺を一体どうしたいの?」 「……離れないで……!」 やっと手に手入れたのだ。霧咲は苦笑すると、榛名をきつく抱き締めた。 「……君がそれを望んでいても、離さない」 榛名も、霧咲の背中に手を回して強く抱きついた。 「そんなの、望まない……」 「本当に可愛いね……暁哉(あきちか)、愛してるよ」 初めて呼ばれた名前にまたときめきを覚えながらも、榛名はそのまま霧咲の腕の中で眠りに落ちた。悲しかったあの夜とは違って、ひどく幸せな気分だった。 * 霧咲は泣き疲れて寝てしまった、愛しい顔を優しく撫でる。いつまで見ていても飽きない。 自分では全く魅力がないと思っているようだが、本当によく自分に会うまで他の男に食われずに済んだな、と思う。霧咲はそれくらい、榛名のことは可愛いと思っているのだ。 榛名はあの日『もう運命の人じゃないと本気で好きになれないのかも』と言っていた。榛名に会えたのは運命だと、霧咲は思う。けど、榛名にとってはそうじゃなかったから? どうしても彼を手に入れたかった。だからその後思わぬところで再会する、という運命めいた裏工作までして――彼を騙したのだ。 榛名の携帯はロックが掛かっておらず、個人情報は簡単に把握出来た。驚くことに、榛名は霧咲の勤務先が懇意にしている病院の透析室に勤めており――これは本気で運命だと思った――そこに助っ人として潜り込むことなど霧咲には造作もないことだった。 「……本当のことを知ったら、君は俺のことを嫌いになるのかな?」 まあ、逃がすつもりはないけどね。 榛名の前髪を優しくいじりながら、霧咲はそうひとりごちた。

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