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第98話 初めての玩具

「霧咲さんっ、やだこれ、外して下さい!」 両手を霧咲に押さえつけられたまま、榛名はリングを外して欲しいと懇願した。しかし霧咲は、そんなこと1ミリも許さないかのように非情に言い放つ。 「何言ってるの?ダメだよ。なんでもして欲しいって言ったのは君だろ?それに君は俺が触るとすぐイってしまうからね、今日は射精管理をしてあげよう」 「だって……苦しいっ!」 「苦しくないと、お仕置きにならないだろ?」 指で、ピンッと尖端を弾かれた。散々触られて刺激に敏感になっていたソコは既に射精を望んでいたため、イケない苦しさに榛名は堪らず悲鳴をあげる。 「やあっ!触らないでぇっ……!」 「……ねえ、榛名」 「っ……!?」 突然霧咲が榛名を呼んだ。2人きりなのに名前ではなく、名字で。 「なっ、なん……」 何故いきなり、名字呼びになったのだろうか。霧咲はセックスの時はいつも呼び捨てか、最近はほとんど無いが『アキ』とあだ名で呼んでくれるのに。 「これはね、無防備すぎる君へのお仕置きなんだよ?俺の言う事が聞けないなら名前では呼んであげられないな」 「え……やだ……」 外なら仕方ない。けど、今は家の中だ。ふたりなのに、セックスするのに、そんな他人行儀みたいな呼ばれ方は……。 「……ちゃんと言う事、聞けるかい?」 「聞く……聞きますから……」 榛名は手の力を緩め、リングを外そうとするのを止めた。 「ふふ、いい子だ……おっと、お仕置き中はキスはしないんだったな」 「………!」 顔を近付けてきたのでキスしてくれるかと思ったのに、口づける直前でその唇は離れて行った。 「なんで……ひどい……っ」 「酷い?」 「キスもしてくれないし、こんなプレイ……」 「プレイだってわかっているなら、君も楽しんだらどうなんだ」 「楽しんだらって!」 楽しめるわけがない。前と違って、霧咲は今本当に怒っているのだ。 前も、プレイだと言われるまでは本気で怒っていると思っていたけども。 こんな状況、楽しめるわけがない。道具を使われているのも恐い。 せっかく誤解も解けて、久しぶりに二人きりの甘い夜を過ごせると思ったのに。 (ああ、でも) 今の状況は自分のせいなのだ。榛名が霧咲を怒らせたから。霧咲がそれほどに、榛名を愛しているから。 そう思うと、ほんの少しだけ霧咲に対する恐怖心は薄れた。 霧咲もごろんと榛名の横に寝転がり、後ろからギュッと抱きしめてきた。右手は榛名の尖端を刺激し、丁度霧咲の顔の位置にある耳に舌を突っ込み、舐りながら囁いてくる。 「今日、君はずっと俺に懇願すればいい。自分の魅力を自覚して、迂闊な行動を反省して、今後はもうこんなことは二度と無いと約束できたら……そしたら、イカせてあげる」 言葉の合間にグチュグチュという音が時折混ざる。温い舌で脳まで舐められるような感覚に、榛名は霧咲の腕の中で身悶えた。 「あ……っあぁ……っ」 「出来るよね?」 「できるからぁ……耳、やめてっ、気持ちいいよぉ……」 何をどうしたらいいのか分からない。けれど榛名はイカせてほしい一心で簡単にそんなことを口にしてしまった。 「ふうん?できるんだ」 「ああっ!!」 霧咲の指が、いきなり榛名のナカの浅いところに入ってきた。自分の先走りで多少濡れているとはいえ、ギチギチと痛みを感じた。 「痛い?」 「い、たい……っけど……」 「けど、何?」 「……っ」 やめて欲しい、とは言いたくない。痛いのは嫌だが、結局榛名は霧咲に甘いのだ。何をされても許してしまうし、何でも受け入れたい。 それに今この状態でやめられてしまうのは、それこそ拷問に等しかった。 「……どうして欲しいのか、ちゃんとお願いしてごらん。聞いてあげるから」 優しい声でそう言われて、榛名は少しだけ顔を後ろに傾けた。相変わらず愉しそうな顔をした霧咲と目が合う。 「ローション使って……もっとナカ、ぐちゃぐちゃにして欲しい……っ」 「……いいよ」 霧咲は指を抜いて身体を起こした。ローションはいつか霧咲が持ってきてくれたものが、ベッドの下に置いてある。霧咲は慣れた手つきでベッドの下を探り始めた。 (早く、早くイキたい……っ霧咲さんのが欲しい!) 霧咲の動きが妙に緩慢に見えるのは、自分がいつもよりも切羽詰った状態だからだろうか。 「あれ。もうほんのちょっとしか残ってないね」 「え……」 ほら、と霧咲がローションの容器を榛名にも見せてきた。本当に、あと1.5㏄ほどしか入っていなかった。 「困ったなぁ、これじゃ少なすぎて今日はセックスができないね?」 「な、何か別のものを代わりに」 いつか使ったキシロカインを、霧咲なら持っているはずだ。他にも何か探したらあるかもしれない。しかし霧咲は榛名の代替案に首を縦に振らなかった。 「別のモノを使うだって?ローションを買いに行ったらいいじゃないか」 「え……いま、からですか?」 「近くに24時間営業のドラッグストアがあっただろう?」 通勤路とは逆なので榛名はほとんど行ったことがないが、確かに近所に霧咲の言うドラッグストアはある。しかし酒も入ってるのに、今からなんて正直面倒臭かった。 「コンドームもないからついでに買おう。それと、ただ買い物するだけなのもアレだから」 霧咲はプレゼントの袋の中に手を突っ込んで、あるものを取り出した。 ピンク色をしたローターだった。 「コレを使って、気持ちよくなりながら行こうか?」 霧咲は楽しそうな表情でパッケージを破りながら、そう言った。

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