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第103話 名前で呼んで

 思わず霧咲の方を振り返った。霧咲はもう笑っておらず、真剣で――少し戸惑っているような目で榛名を見つめていた。榛名もじっとその目を見つめ返し、自然にその名を呼んでいた。 「まこと、さん……?」  すると、霧咲の顔がだんだんと近付いてきて……唇と唇が合わさった。 「んっ……」  1,2秒しか触れていないのに、榛名にはそのキスがまるでスローモーションのように思えた。 「ずっとね、君に名前を呼んで欲しかったんだ」 「な、なんで……」  やっとキスをしてくれた嬉しさと、いつもの優しい霧咲に戻ったことに安堵して、榛名の目からは自然と涙が零れ出した。 「何でだって?君と俺は恋人同士なのに、君がなかなか名前で呼んでくれないからだろ」 「違います!なんでもっと早く、言ってくれなかったんですか……っ?」 (名前を呼んで、だなんて) 「こんなの、全然お仕置なんかじゃないです……」 (もしかして、今日の今までの意地悪は全部、コレを言わせるためだった?) 「だって君、恥ずかしがってたんだろ?」 「た、タイミングが掴めなかっただけですよっ」  一緒に住み始めたら『霧咲さん』はおかしいから、名前で呼ぼうと思っていた。少し気恥ずかしい気もしていたが、ここまでされないと呼べないほどのものじゃない。 「なんだ……。けどまあ、お仕置っていうのも本当だよ?二宮さんのことは本当に寝耳に水だったんだからね」 「その勘違いは、俺だけのせいじゃないですから!」  霧咲はまたチュ、チュ、と榛名の顔や耳に大量にくちづけてくる。榛名も涙を流しながらそのキスを受け入れる。さっきは全て自分が悪いと受け入れていたことも、半分は霧咲のせいだ、と言い返せた。 「まあ、それはそうだけどね……」  霧咲も素直に受け取る。そして。 「誠人、さん」 「ん?」 「リング……取ってくれます?」 「……ああ」  涙で潤んだ目で微笑んで、そのうえ上目使いであざとくお願いしてくる榛名に、霧咲は思わず顔が綻んでしまう。しかしそこでまた、霧咲の『好きな子に意地悪したい性質』が再び頭を擡げてきた。  霧咲はコックリングには手を添えず、両手でがっしりと腰を掴んだ。霧咲が予想していなかった動きをし始めたので、榛名の口からは思わず疑問の声が漏れる。 「え?ちょっ……」 「もうちょっと、後でね?」  卑猥な音を立てながら、霧咲のものがぎりぎりのところまで引き抜かれる。 「ちょ、待って……嘘でしょ……ひあァアッ!!?」  そして再び、思い切り奥まで貫かれた。  頼むからリングを外してくれと何回懇願しても、霧咲は外してくれない。今はもうお仕置じゃない分、タチが悪いと思った。しっかりと腰を抱えられて、バックスタイルで思いきりガンガン突かれる。 「ひあァッ!!もう…だめ、いやァ…だしたっ…出したい…!!」 「君、もう既にナカで何回もイッてるよね?すっごいきゅうきゅう締め付けてくるけど。別に出さなくても、いいんじゃないかっ……?」 「やっ……おねがっ、おねがい、きりさ、誠人さん、はずし、て」 「ふふっ」  霧咲が楽しそうに囁いてくる言葉は、もう榛名の脳には行き届かない。ただ必死で玄関に縋りつき、きっと近所迷惑なくらいに叫んでいる。榛名はこれも霧咲の狙いなのだと気付いた。  マンションで、この付近で、榛名に二度と表を歩けないような大恥をかかせて、早く自分のところに引っ越させようとしているのだ。  もしかしたら出会ってから今現在まで、自分が気付いていないだけで――既に自分は何らかの霧咲の策にハマっているのかもしれない、と思った。 「もっと俺の名前を呼んで、暁哉」 「まことさん、誠人さんっ!」 「もっとだ」 「誠人さん!まことさっ……!」  それでもいい。自分が知らない内に霧咲の罠にハマっていて、それで今こんな状況に陥っているのだとしても。  霧咲と出逢ったことを、彼を愛したことを、後悔なんてしていないのだから。 「本当に君は可愛い。初めて会った時から、ずっと可愛いよ……」  霧咲の手が、榛名を拘束しているリングに触れた。 「ひぅ……ううっ、まことさん、まことさん……!」 「暁哉……世界でいちばん、誰よりも君のことを愛しているよ」  愛を囁く言葉だけは、するりと榛名の脳に素直に浸透していく。そしてやっと、霧咲はリングを外してくれた。  ギチギチに締め付けられていたソレを解放された途端、榛名は叫びながら玄関に向かって勢いよく白濁を飛ばした。 「ひあ、ああああっっ!!ムグッ!」 「夜だから、ちょっと静かにね……」  霧咲に優しく口を押さえられた声の代わりに涙が溢れ、尖端からは白濁液がだらだらと止まらない。以前のように放尿までしているんじゃないか、という錯覚に陥った。  そして、榛名の悲鳴が収まると手は離された。 「あ……ああああ……っ」 「たくさん我慢したから、射精が最高に気持ちいいだろう?おや、潮まで吹いてるね」  霧咲の手が、榛名の頭を優しく何度も撫でる。顔にも舐めるようなキスをされた。 「はぁっ、あ、き、もちい……」 「じゃあまた、射精管理してほしい?」  あんなに苦しかったけど……解放されたときの気持ちよさは、今までで一番感じたかもしれない。 「して、欲しいです……」 「ふふっ、素直で可愛いね……でもまだ終わりじゃないよ、たくさん突いてあげる」 「んああぁっ!」  霧咲はまだイってなかったので、再び榛名の腰を抱えたまま思いきり腰をグラインドさせた。 「あっ!アッ!ァああ!」  リズミカルに腰を穿かれ、また自然に声が漏れ始める。いったい今は何時頃なのだろうか。きっと隣近所の住人は寝静まっているに違いない。  寝室は防音性が高いものの、玄関はそうとも限らないのに興奮して声が抑えられなかった。

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