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第155話 榛名、亜衣乃の対大人コミュ力に驚く

 大浴場も高級温泉宿らしく、なかなかの広さと内装だった。髪と身体を洗って(一応榛名も洗い直した)、中の大きな湯船や外の露天風呂に浸かり、2人は箱根の温泉を堪能した。  他の客は金持ちそうな年輩客が多く、やはりそれなりの値段のするホテルなんだな、と榛名は再び実感する。また誰かが心臓発作や脳梗塞でも起こして倒れないといいけど……と、余計な心配もした。 「暁哉、サウナは入らなくていいの?」 「あ、俺サウナが苦手なので……」 「そうなんだ。じゃあ俺もパスしとこう」 「別に俺に合わさなくてもいいですよ?先に上がりますけど、待っときますから」 「そんな冷たいこと言わないでくれるかい?俺は君とずっと離れずに一緒に居たいだけなんだから」 「……っ」  霧咲がそう言ったあと、榛名はボッと顔を赤くして周りをキョロキョロ見渡してしまった。とりあえず、誰にも聞かれていないらしい。 「あんまり人のいるところで、恥ずかしいこと言わないでください」 「俺は恥ずかしくないけど?」 「俺が恥ずかしいんですっ」 「んー、照れる君が可愛いからやめられないなぁ」 「……照れるなって言うんですか」  霧咲のことがこんなに好きなのだから、照れないわけがないのに。分かって言ってる霧咲はやはり意地が悪い。  でも、恥ずかしいことを言われるのが心底嫌なわけでもないから、そういう自分もタチが悪いな、と榛名は思った。 「そういえば以前ね、サウナに入れば透析時間を短くしてもいいんじゃないかって勘違いしてる患者がいたよ」 「あ、そういう人俺も遭遇したことあります。汗をかいてその分水分が減るから透析はしなくていいんじゃないかって言うんですよね」 「そうそう。こっちの説明を何一つ理解してないよね。聞いてもいないけど」 「毎回説明するのに骨が折れますよね……」  たまに、汗をかけばそれでいいと思っている患者がいる。サウナに入ったところで、水分は抜けるがカリウムやリンは体内に残っているため、透析時間を短くすることは出来ないのだが(むしろ脱水になったり余計に水分が欲しくなるので悪循環だ)、こちらがいくら説明してもなかなか理解しようとしない。  透析を導入したばかりの患者に多く、一生透析を続けなければいけないという現実をなかなか受け入れられずにいるため、そういう考えも致し方ない、とは思うのだが。 「って、せっかく旅行中だし仕事の話はやめようか」 「まあまあ、週に二回は同じ職場で働いてることだしいいんじゃないですか?」  榛名にとっては仕事の話が嫌というよりも、霧咲と同じ話題で話せるということの喜びの方が大きいのだった。  榛名は、亜衣乃がとっくに部屋に戻っているものと思っていたのだが、霧咲が念のために鍵の有無を確認して行こう、と言うので二人は再びロビーへと戻った。  すると霧咲の言った通り亜衣乃はロビーに居た。しかも、一人ではない。 「あ、まこおじさん、アキちゃん!」 「亜衣乃ちゃん!その人たちは……」  亜衣乃はロビーで、おしゃべりをしていたようだ。その相手は、また見知らぬ老夫婦だった。なんだかデジャヴっぽい光景だ、と榛名は思った。 「亜衣乃が一人でいたら話しかけてきてくれたの。ジュースおごってもらっちゃった」 「貴方たちがこの子の家族さん?まあまあ、本当に素敵なお父様とかっこいいお兄様ねぇ」 「へっ?」  老婦人にそう言われて、榛名は反応に困った。初対面の人にかっこいい、と言われたのが初めてだからというのものある。 「すみません、娘にジュースを買ってくださったなんて」 「いいんですよ。孫が遠くに住んでるものだから、私達の方が相手して貰えて嬉しかったんですから」  榛名がアタフタしている内に、霧咲が頭を下げて大人同士の対応をしていた。  老夫婦に別れを告げて部屋へと戻る途中、霧咲が亜衣乃に言った。 「おまえ、そのコミュ力をもっと学校で発揮したらどうなんだ」 「同級生はコドモすぎて話にならないの。話だって合わないし、無駄なんだもん」 「今回は相手が良かっただけだろう。お前ね、ほんとにもっと普段から警戒しとかないといつか簡単に誘拐されるぞ。老人が犯罪を犯さないと思ってたら大間違いなんだからな」 「だからちゃんと他の人もいるロビーで話してたでしょ?まこおじさん達が鍵を取りに戻ってくることだって亜衣乃、分かってて話してたんだから」 「ああ言えばこう言う……何でそんなに生意気なんだ?」 「亜衣乃、別に間違ったことしてないもん!」  このまま喧嘩になりそうだったので、榛名が間に入った。 「まあまあ亜衣乃ちゃん。まこおじさんは意地悪で言ってるんじゃなくて君のことを心配してるだけなんだよ。誠人さんも、もとはと言えば俺たちが亜衣乃ちゃんを一人にしたのが悪いんですから、そんなに責めたら可哀想ですよ」 「でもアキちゃん!」 「でも暁哉!」  同時に榛名を呼んだことが恥ずかしかったのか、二人は一瞬フリーズした。その様子に、榛名はプッと噴き出す。 (似たもの親子……)  くすくすと笑い続ける榛名を見て、二人は少しバツが悪そうな顔をして黙って部屋まで歩いたのだった。

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