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第167話 合コン開始

「ええっ!?二宮さん来てないのぉ!?」 集合時間に指定の場所に集まり、堂島が二宮不在を報告すると、山本はキンキン声で堂島を非難するかのように言った。 「……来てないとは言ってませんて、ちょっと遅れるっつったんです」 「遅れるってどれくらい?」 「んーと……回路の片付けまでして……約2時間後ってとこじゃないっすか?」 「うそぉー!?てか居残りだったら堂島くんが代わりに残れば良かったじゃない!」 「俺も一応立候補しましたよ!けど、二宮先輩がいいって言ったから……」 「はあ~……」 山本はとても分かりやすくガックリと項垂れた。この会話だけで、山本が二宮狙いであるということは全員が知るところとなった。またしばらく院内で噂になることだろう。 「まーまー山本主任いいじゃないですか、旦那さんにするのは遊びよりも仕事を取るようなヒトの方がいいに決まってますよ!」 「む、それもそうね……」 部下のナースのその一言で、山本は簡単に立ち直った。実に単純である。 もっとも堂島としては、今のはとても不快な台詞だったのだが……どうやら山本は、今回二宮にかなり本気でアタックするつもりらしい。 ふう、と一息ついて仕切り直す。 「とりあえず、先に飲んどきましょーよ。二宮先輩と一緒に残ってんのは榛名主任だし、もしかしたら仕事終わったら二宮先輩と一緒にここ来るかもっスよ?」 「ええっ榛名くんも来るの!?キャー!」 (来るわけねーだろ、ばーか) キャーの意味が良く分からないのだが――榛名は直接話さない限り、特別に好意を持って貰えるようなモテるタイプではない――その一言でますます山本はテンションが上がったらしい。 榛名も独身なので、山本にとっては二宮に次ぐ2番手、と言ったところだろうか。 山本は他の参加者たちを引き連れて居酒屋の中へと入っていく。堂島も、ノロノロとその後に付いて行った。 堂島が他に声を掛けたメンバーは、同じコメディカルの理学療法士1名と、レントゲン技師の2名だ。 山本同様に皆合コンが好きなタイプなので、誘うとほいほいOKしてきた。 もっとも彼らは彼女を探しに来たというよりは、ナースと飲みたいだけらしいのだが。 とりあえず堂島は、一応山本に気を遣うという体で、自分よりも歳上のメンバーばかりを選んだ。 (二宮先輩より気が合いそうな奴ら、いっぱいいんのになぁ……) ビールを飲みながら、ぐるりと周りを見渡す。ナース側は、山本以外は20代のようだ。皆それぞれ病院ネタをきゃいきゃい話している。 こういう時に一番盛り上がるのは、良くも悪くもやはり医者の話題だった。 「ねー堂島くん、透析室のイケメン先生はいつまで助っ人してくれるの?」 「来年までいるなら、あたし4月から透析室に移動したーい!」 「あーあたしも!ていうか外科医ならこっちの助っ人してもらっても良くない!?」 「藤野先生と交換でね!」 「あ~それ最高~~!!」 「はは……絶対にごめんですぅ……」 つい有坂の口調で言ってしまった。どうやら透析室で嫌われている外科医の藤野は、外科病棟でも嫌われているらしい。 堂島としては別に霧咲でも藤野でもあまり変わりはないのだが(藤野医師は40代後半、既に頭が薄くて性格がきついと評判だ)シャントオペを行って貰うのは絶対に上手な霧咲の方が良いため、藤野はお断りなのだ。 それはひいては患者のため、そして仕事をする自分たちのためである。 「霧咲先生がいつまで助っ人なのかは知らないっスけど、まあ榛名主任がいる限りはウチに居るんじゃないっすか?」 「え~なんで?仲良しなの?」 「すっげぇお気に入りだから」 「何それあやし~~!キャ~~!!」 女性がホモネタで盛り上がれるのは、透析室も外科病棟も変わんねぇな、と思う堂島だった。 「霧咲先生は一度も合コン呼べなかったんですよねー?山本主任」 「ええ、恋人がいるからダメだって榛名くん経由で断られちゃったわよ」 「……それ、恋人が榛名主任ってオチじゃないですか?」 「ええっ!?まさか!」 (うわ、やっべ!) この話の流れは非常にヤバい。余計なことを言うんじゃなかった、と堂島は後悔した。誤魔化すように、大きな声で次の話題を振る。 「あっ!今日の緊急透析に入った患者さん、透析後3階に入院らしいんで!今夜からよろしくお願いしまっス!!」 「ええ~~!ウチ~~!?」 「はい!よろしくお願いします!」 「ま、しょうがないか……受け持ちは誰にしようかな、今誰が受け持ち少ないっけ?」 「山本主任!仕事の話は仕事中にしましょうよ~!!今は飲みましょ!ね!」 「それもそうね!あー、早く二宮さん来ないかな~!!」 「俺たちの相手もしてくださいよ~~!」 ふう、なんとか誤魔化せた。 堂島は、心にもないことを言って山本をチヤホヤしてくれるコメディカル連中に心から感謝した。 * 2時間経ったが、まだ二宮は来ない。 大体頼んだものは食べ終わったので、一行は二宮を待たず(最初は二宮の分も残されていたが、なかなか来ないので誰かが食べてしまった)二次会のカラオケに移動することにした。 「俺、ちょっと二宮先輩に連絡してきますね」 そう言って、堂島はスマホを持って1人で居酒屋の外へ出た。すると。 「あ!二宮先輩!!」 出たところで、ちょうど二宮がいた。近くの駅から急いで来たのか、少し息が上がっていて、鼻の頭もほんのりと赤い。 服装は、合コンだからといって気合いが入っていたりはせず、いつもの二宮そのままだった。それが堂島には少し嬉しかった。 「遅くなって悪い、患者が終了30分前にショック起こして大変だったんだ。病棟は夜勤で人が少ないから、3階に運んだあとも俺と榛名主任が色々処置を手伝ってて」 「まじっすか……めっちゃお疲れさまです」 「うん。もしかして、もう出るとこ?」 「あっハイ」 「次どこ行くんだ?」 「カラオケです」 「そっか、じゃあ晩飯はそこで食うかな」 「是非そうしてください。じゃ、とりあえず入りましょうか」 「堂島」 また居酒屋の中に戻ろうとした堂島の腕を、二宮が掴んだ。 「え?」 「誰にもちょっかい掛けられなかったか?」 「へっ?……あ、ハイ……」 その言葉の意味を理解するまで、タイムラグが五秒ほどあった。だが気付いた瞬間、堂島はボンッと赤面した。 「じゃ、とりあえず挨拶だけしてくっかな……」 「ちょ、ちょ、せんぱい」 二宮はそんな堂島を放っといて、さっさと1人で中に入っていってしまった。 今は酔ってるから、多少顔が赤くても不自然ではないとはいえ…… 「何っスか今の、反則すぎるうぅぅー!!」 そう叫ばずにはいられない堂島だった。 周りからは、酔っ払いが何かを叫んでいる……という目付きで睨まれていた。

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