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第196話 写真談義
その後は霧咲と亜衣乃の希望で、榛名の小さい頃のアルバムを見ることになった。母が両手に持ってきた分厚いアルバム三冊に、霧咲は目を丸くして驚いた。
「こ……こんなに、あるんですか?」
「これでも小学校に入る前の分だけやけどねぇ」
「ええっ! これで六歳までの分ってこと!? アキちゃんどんだけ自分の写真持ってるの!?」
亜衣乃の言い方はまるで榛名が自分で自分の写真を撮ったように聞こえて、榛名は少し気恥ずかしくなった。
「そんなに驚くことかな? お姉ちゃんの写真は俺よりもっと多いよ」
「えー!!」
「お父さんが写真撮るの好きだからね、普通だと思ってたけど」
榛名が幼い頃はスマホでバンバン写真が撮れるような時代ではないため、今ほど気軽ではないにしても、それでもこのくらいの量なら普通ではないか、と思ったのだが。
「ふつう……なのかなあ? 亜衣乃、小さいときの写真ってあんまり持ってないからよくわかんないや」
「うちの両親は日常の写真を撮って残す習慣はなかったからなぁ……行事のときは別だけど」
申し訳なさそうな顔で霧咲が言った。
「えっそうなの? あ、もしかすると蓉子さんが持ってるんじゃないですか?」
「「うーん……?」」
霧咲と亜衣乃は顔を見合わせて首を傾げた。ふたりのそのシンクロした仕草に萌えつつも、いつか機会があれば亜衣乃の写真について蓉子に尋ねてみよう、と榛名は思った。
まず会って貰えるか分からないが……。
「じゃあアキちゃんが亜衣乃の写真をいっぱい撮ってくれるのは、お父さん譲りなんだね」
「そういうことになるのかな? まあ、モデルが可愛いのもあるんだけどね」
「やだあ、アキちゃんったらー」
亜衣乃はぶりっこな仕草と猫なで声で喜んだが、ぼそっと霧咲が「こいつは俺がそういうことを言うとしらっとした顔で知ってるし、って返すんですよ』と暴露し、早くもキャラ崩壊(?)の危機が訪れたのだった。
*
「アキちゃん、小さい頃女の子みたい!! めちゃくちゃかわいい~!!」
「~~っ……! ~……っっ本当にかわいいな、暁哉……!」
榛名の幼い頃の写真を見た霧咲と亜衣乃のリアクションは、榛名の予想以上だった。特に霧咲においては、普通に可愛いと言われるくらいは想定内だったが、まさか口を抑えて言葉を失うくらいに大袈裟な反応をされるとは思わなかったのだ。
子ども時代の榛名は確かに可愛いのだが、それは子どもというフィルターもあり、特別にズバ抜けた美少年というわけではない。
「誠人さん、その反応は俺も恥ずかしいんで少し感情を抑えてくれませんか……」
二人だけならまだしも、ここには亜衣乃も両親も姉夫婦もいるので、可愛いと言われてとても嬉しいが、素直にありがとうございますと返すのもなんだか憚られてしまう。
ふと霧咲は顔を上げて榛名の顔をじっと凝視すると、「今とあんまり変わってない気もするな……」と言った。
「ちょっと!」
「アハハ! たしかにあー君はいつまでもあー君って感じよねえ~、ほっぺたのぷにぷに感はなくなったけどさ、声変わりしたときもあんまり違和感なかったし」
桜が少し懐かしいような目で榛名を見る。
「ぷにぷになんてしてなくてあたりまえやろ! 三十路前の男になんてこというんだよ……」
「そうかな? お腹のほうはそうでもないみたいだけど」
霧咲が服の上から榛名の腹部をつん、とつついた。
「ちょっ……もう誠人さん! 勝手にお腹触らないでくださいよっ!」
「ははっ」
「も~まこおじさんてば無神経! アキちゃんだいじょうぶだよ、全然太ってないからね!」
「あ、ありがと……亜衣乃ちゃん」
(実は自分でもちょっとだけ気にしてたりして……今度から透析室で食べるお菓子の量、少し控えめにしようっと……)
榛名も霧咲も普通に流したが、二人以外の面子――特に、アルコールの入っていない姉夫婦――は霧咲の発言と行動に内心ドキッとした。
霧咲も普段ならばこんな人前で堂々とイチャつくような行動はしないのだが、やはりまだ少し酔っているのとあまりにも可愛い――霧咲の目にはまるで天使のように見える――子ども時代の榛名の写真を見て、少し箍が外れてしまっているようだ。
「桜お姉ちゃんもかわいいね!」
「うふふ、もっと言って亜衣乃ちゃん」
「とりあえず暁哉のアルバムあるだけ持ってきたから、好きに見てね~」
母が持ってきた大量のアルバムを見て榛名はゲッソリとした顔をしたが、対照的に霧咲はキラキラした目でその山を見ていたのだった。
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