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第202話 遠慮はいらない

「ん……ふっ……うんっ……」  ほんのりと薄暗い、どこかムーディーな雰囲気を醸し出している間接照明の灯った狭いホテルの一室で、少し苦しそうなくぐもった声と、グチュッ、ヌチュッという粘っこい水音がひっきりなしに続いている。  榛名は霧咲の両肩をしっかりとつかみ、懸命に自分のいいところを探っていた。先程霧咲が教えてくれたので、その辺りを重点的にグリグリと擦り付ける。  でもやはり霧咲がシてくれるようには気持ちよくなれなくて、目で『そろそろ動いて欲しい』と相手に訴えるも、霧咲は微笑むばかりでまだ動いてくれる気はないようだ。 痴漢のようにむにむにと榛名の尻を揉んで感触を楽しんだり、時折軽い揺さぶりはかけてくるものの……。 「はぁッ、あ、んん……ッ」  騎乗位が得意になれない原因を、榛名はなんとなく分かっている。まだ自分の中に恥じらいが残っているからだ、と思う。  セックスの後半に頭も身体もトロトロに溶かされ、身も世も無くよがっている状態ならいざ知らず、今は夕食時のアルコールで少し酔っているものの、まだじゅうぶんに理性が残っていた。恋人の前で淫らに腰を振り、ひとり快楽を貪るのは恥ずかしい、と思うほどには――。 (さっきはもっともっと、恥ずかしいことをしたのに……) 「暁哉、」 「あ、すみませ……ッ、きもちよくなかったですか」 「ううん、考えごと?」 「と、いうか……」 今更、恥ずかしいだなんて言えない。 霧咲とはもう何度もしつこいくらい、身体を重ねてきた仲だというのに――。 顔を見せないように、そっと肩にもたれてきた榛名に苦笑を漏らして、霧咲は少し身体を起こして体勢を整えた。 「べつに、意地悪で動かないわけじゃないんだけどね」 「え? ――あっ!? ぁあっ!」 霧咲がいきなりズン、と下から突き上げてきて、そのまま激しく榛名を揺さぶり始めた。 余裕そうに見せていたが、初めてでもない騎乗位で恥ずかしがっている恋人が可愛すぎて、自分自身がもう限界なのだった。 「自分のペースで気持ちよくなったほうが、明日が楽かなって思ったんだよ」 「ひぁっ……! あ、そこッ、そこきもちいい……あぁーっ!」 「ほら、腰を振って……そう、上手だよ」 「んんっ、あんっ、あ、あ!」 意地悪じゃないなんて、恥ずかしがる自分を見て楽しんでいたくせによく言えるな――と榛名は霧咲に文句のひとつも言ってやりたかったが、それは終わったあとにする。 今は我慢を強いられたぶん、彼の与えてくれる快楽に酔いしれたい。 「あっ! あっ! そこ、そこ気持ちいいっ! もっと、もっと激しく突いて……っ!!」 霧咲の突き上げるリズムに合わせて、イイトコロに当たるよう腰をくねらせる。歳の割に鍛えられている彼の硬い腹筋に手を付いて、榛名は涎を垂らしながら天井に向かって喘いだ。 普段のセックスの回数が減ったわけではないが、やはり別室に亜衣乃が寝ていることを考えたら声はほとんど出せないし、行為も控えめなものになる。 だけど今は二人きりで、その上ここはラブホテルだ。自分たちのほかには誰もいない、遠慮なんかいらない――。そう意識したら、榛名は箍が外れたように乱れだした。 「きみ、騎乗位結構上手いじゃないか。俺今動いてないよ」 「あっ! や、うそっ! ああっ、気持ち、きもちいい……っ! あああんっ」 「俺も気持ちいいよ……きみの感じている顔を見てるだけでイキそうだ……っ!」 先程まで恥ずかしがっていたのが嘘のようだった。榛名は先程の練習(?)のおかげでコツを掴んだらしく、霧咲が動かなくても自分のイイトコロに当てられるようになっていた。  しゃがみこむような体勢でみだらに腰を動かし、霧咲の肉棒を己の肉壁に何度も何度も擦り付け、搾り取るようにぎゅうっと締め付けた。  その強い締め付けには霧咲も『うっ』と声を漏らし、完全に主導権を奪われないよう、疎かにしていた胸の飾りをぎゅっと摘まんで榛名の気を逸らした。   「んっ、んっ……あぁっ!」 「ここ、可愛がってあげるの忘れてたよ。ごめんね、好きなのに」 「あ、あ、同時にするのやだぁ、あぁっ!」  嫌だと言うわりにはそれを止めるでもなく、むしろ霧咲が弄りやすいように榛名は胸を迫り出した。目の前にそれを持ってこられては、霧咲に舐める以外の選択肢はない。 「あ、あ、あーっ! いいっ、ちくび、きもちいいっ……! もっと舐めて、噛んでっ……! あ、あんっ!」  霧咲の頭を抱き込み、ゆるゆると腰を動かしながら胸への愛撫を全身で享受する。触れてもいない榛名自身からはダラダラと蜜が溢れ続けていて、自分と霧咲の下半身をべとべとに濡らし、自分たちが動くたびに卑猥な水音を響かせていた。

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