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11-4 スキル「安産」は俺にとって呪いでしかない
「あの、貴方は本当に一部の種族からは神様のような方なのです。それはこの世界では確かな事ですよ」
静かな声でシスターさんが言ってくる。俺はそれをぼんやり聞いた。
「竜人族や魔人族、天人族は子が生まれずに困っています。このままでは一族が滅ぶかもしれないと、本当に悩んでおります。貴方はこうした方達を救い、家族を与える事ができるのです」
ふと、ユーリスさんの顔が浮かんだ。竜人族の王子様で、子供ができないと血が絶えてしまうという彼はとても困っている様子だった。
トクトクと心臓が鳴る。それに戸惑ってしまう。
「あの、でも多くの種族って言われても。子供作るって事は、結婚しようって話にもなると思うし、そうなれば結婚相手の子供ばかり産むって事で…」
「沢山の伴侶を持てばよいのですよ」
「……ん?」
沢山の伴侶とか申しましたか、この人?
「あの…」
「伴侶が一人でなければならないなんてことはありません。複数の伴侶を持つ人なんて沢山いますよ。それに、伴侶を持たずにお金で求められるままに子を産む人もいます。そうした人はとても裕福ですよ」
「えっと…」
ダメだ、本格的に思考がついていかない。なにか? この世界は一夫多妻とか多夫一妻が認められているのか? 他にも通い婚とか内縁とか職業妻みたいなのもいるのか!
「安産スキルを持っている方の中には、求められるままに子を産んでお金をもらう人もいるそうです。大きな屋敷に住んで優雅に暮らしているそうですよ」
俺にはその倫理がついていけないです。
「もしもこうした職業を始める気がないのでしたら、このスキルのことは人に話さない方がいいですよ」
ヒソヒソとシスターさんが言う。それに、俺はもう何度目か分からないほどに首を傾げた。
「貴方のような高レベルのスキルの方は本当に見た事がありません。前述の人達もスキルがあるという程度で、レベル自体は低かったと記録されています。だから、絶滅危惧種族の方でも容易に子は授かれなかったようです。ですが、貴方はほぼ100パーセントです。知られれば攫われて、いいようにされてしまう可能性も」
俺の全身から血の気が引けた。
俺は自分を守るにはあまりに弱い。唯一縋るべきスキルが逆に俺を危険にするんだ。攫われたって抵抗できず、いいように嬲られて子をなんて、そんな事も出来てしまうんじゃ…。
震えが走る。これ、俺にはタダの呪いだよ。
「信頼できる…子を産んでもいいと思えるような方だけに教えた方がいいですわ。できれば、絶滅危惧種族の方がいいですよ。彼らは皆お金を持っていますから、子の一人でも成せば優しく養ってもらえます」
俺の震えに同情したのか、シスターさんは気遣わしげにそう言って俺の手を握ってくれた。
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