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19-4 スキルがあっても無理なものは無理!

「いい顔ですね。お子は男の子ですぞ。今綺麗に洗っておりますので、もう少しお待ちください」 「あぁ、うん。あっ、おっぱいとか出るんだよね? あげたほうがいい?」 「出るのでしたらその方がよいですが…女性でも最初は出ない事がほとんどですぞ」  婆さんに言われて、俺は自分の胸をちょっとだけモミモミとしてみる。すると少しだけ張ってくるような気がした。 「出るかも?」 「試してみましょうか」  相変わらず腹に手が当てられている。自己治癒もあると思うけれど、それでも追っつかないのか。  そのうちにまだ裸のままの小さい赤ん坊が抱かれてくる。  俺はそれを抱いて、あまりに小さくて弱くて怖くなった。本当に力の加減を間違ったら壊れてしまいそうだ。  そっと胸を開けて近づけてみると、口の辺りが「むにゃむにゃ」としてくる。試しに咥えさせてみたら……おぉ? 「あ、吸えてるっぽい!」 「ほぉ!」  やっと俺の治療が終わったっぽい婆さんも目を輝かせて見ている。小さな口が必死に俺の乳首を咥えて…案外凄い力で吸っている。その度になんかジワッと感じるし、張った感じが緩和されていく。これは間違いなく吸えている。 「でも、ちょ、痛いかも」  一度口を離させてもう片方。こっちも上手く飲めてるっぽい。  やがて両方すっからかんで「出ないよ」という所で自主的に離してくれた。満足したっぽい。 「マコト様素晴らしい! なかなか出なくて苦労する者がほとんどですぞ!」 「そういうときってどうするの?」 「代わりの乳を与えます」 「なるほど」  粉ミルクではないものの、そういう代替品があるのか。ちょっと安心した。  チビはユーリスに似ている。黒髪に、黒い瞳だ。丸くて温かくて、柔らかくて可愛い。俺はもの凄く嬉しくてずっと笑っている。 「産着を着せて、ユーリス様の所につれて行きますよ。マコト様はもう少しここに。体調が安定しましたら寝室まで運びますので」 「自分で…」 「なりません!」  強く言われて俺も押し黙る。いつの間にか俺の下半身にはおむつみたいな物が履かされていた。すんごい恥ずかしい。こういうプレイ?  俺の手を離れたチビはベビーシッターのメイドさんの手で白い産着を着せられて部屋から出て行く。見送りながら、終わったのを感じて力が抜けた。 「ご立派でしたぞ」 「けっこう恥ずかしい荒れっぷりだったけど…」 「なんのあのくらい。獣の様に叫ぶ者がほとんどですぞ」  婆さんは笑ったけれど、笑えない。確かにそのくらい痛かった。  俺は大人しく寝かされて、時々お腹に手を当てられて、水を飲んだりした。すんごく喉渇いてたかも。でも、痛くもないし、妙に興奮しているし、でも疲れているし。そんな滅茶苦茶な気分で横になっていると、部屋のドアが開いた。 「あ…」  ユーリスが目にたっぷりと涙を浮かべて入ってくる。そして寝たままの俺に覆い被さるようにして抱きしめてきた。 「有り難う、マコト! 本当に…こんなに苦しい思いをさせてしまって…」 「あぁ、うん。でも今は平気だから、心配ないよ」  あんだけ辛くても生きてるんだしね。  見れば戸口に涙ぐんだままのお妃様と、それを支える王様の姿もある。来ていたなんて知らなくて体を起こそうとしたら、ユーリスが慌てて止めた。  チビはお妃様の腕の中だ。なんか笑ってる。 「マコト」 「お妃様」 「辛かったでしょう。本当に、なんてお礼を言えばいいか…」 「お礼なんて」  俺が望んだことで、過ぎると幸せしか残っていない。俺はもの凄くゆったりと笑った。 「マコト、よく頑張ってくれた」 「いいえ、王様」  ほんの少し目元が赤い王様に笑う。  お妃様の腕から、チビは俺の腕に戻ってくる。キラキラした大きな黒い目が俺を見て、嬉しそうに笑っている。俺がお母さんって分かっているのかな? そんな気がして、頬が緩んでくる。 「可愛いな」 「あぁ、本当に可愛い」 「こんなに小さくても竜人なんだな」  目尻と前髪に金色を見つけて笑うと、ユーリスも一緒になって笑った。 「名前、なんにしようか」 「それは母親が付けるのが習わしだ」 「そうなのか!」  悩む。確かユーリスの名前って、ユーリス・フェン・フィアンサーユだよな? ってことは、これに合うようにしないと…。 「シーグルってのは、どうかな? なんとなくだけど…」 「シーグル?」  RPGで俺がよく使う名前。ほら、最初に適当にランダム設定で名前付けるシステムあるだろ? あれで、ただ響きがいいってだけで使ってた名前。でも、愛着あるんだよ。 「いいんじゃないか? シーグル・フェン・フィアンサーユ」 「そうね」  王様とお妃様がそばで言ってくれて、ユーリスも頷いてくれる。それに俺も安心して、腕の中の温かいチビ助を指で遊んだ。 「お前の名前、シーグルに決まったよ」  分かっているのかいないのか。腕の中のシーグルは嬉しそうに声を上げて笑っていた。

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