72 / 73

20-3 スキル「安産」で異世界を渡り歩く方法

 ユーリスの隣に立って、モリスンさんの手からユーリスの手に手を重ねて、教会の祭壇の前に立っている。見上げると黒い瞳が柔らかく微笑んでくれて、安心する。 「これより、ユーリス・ファン・フィアンサーユ殿下と、マコト・ツキシロの誓いの儀を行います」  王城の一番偉い司祭さんが厳かに宣言して、神に祈りを捧げている。それを黙って聞く間も、ユーリスの手は俺の手を握っている。  少し強く握れば、柔らかく返してくる反応。俺はそれを感じて前を向いた。 「それでは、誓いの言葉を」  祭壇の前で互いに向き直ると、妙に恥ずかしい。俺は他の人の視線も感じている。けれど、目の前の人がどこまでも甘く微笑むから、俺はそこから視線を外せなくなっている。 「マコト、俺はこの先も君だけを愛している。君と、君と共に作る家族を生涯愛し、慈しんでいく」  そんな事を言われると口から心臓飛び出るって。俺は真っ赤になりながら、それでも何か言わないといけないと思って口を開いた。 「俺は…ユーリスの事が好きです。俺は本当に何も出来ないかもしれないけれど、ただひたすら愛してるって事だけ本当だから。この気持ちだけしか渡せないけれど、今後も一緒にいてくれるかな?」  これでいいのだろうか。決まった言葉はなくて、気持ちを伝え合うのが誓いの言葉だって教えてもらったから、そのようにした。  でもこれ、公開プロポーズみたいですんごい恥ずかしい。  頬も耳も首も真っ赤だろうなってくらい熱くなる。そんな俺に、ユーリスも真っ赤になって頷いた。 「勿論、それで構わない。君を生涯幸せにする。この気持ちに嘘はないと誓って言える」 「ユーリス…」  抱き合って、嬉しくて笑った。そんな俺達の前にすかさず司祭さんが指輪を差し出してくる。  銀の指輪に黒い宝石のはまったその指輪を、ユーリスは丁寧の俺の左手薬指にはめる。俺も同じくした。  身につける揃いのアクセサリーを結婚式で贈り合うのが通例。けれどアクセサリーの種類はみんなバラバラでいい。  そんな緩い事でいいのかと思ったが、いいらしい。唯一既婚者のランセルさんなんて、首輪を贈ったらしい。奥さん、凄く嫌な顔をしてたけれど…。これ、外れないんだって。凄いよね。  ユーリスは拘りがないって言って、俺の世界の結婚式の事を聞いてきた。だから俺は日本らしい指輪の交換の話をして、いたく気に入られた。  石は互いの瞳の色ってことで、二人とも黒になった。でも石の種類が違う。俺の指輪にはまっているのは黒曜石で、ユーリスの指輪にはまっているのはブラックサファイア。ちょっと茶色っぽい色も混じってる。 「では、誓いのキスを」  司祭が笑い、俺は恥ずかしながら顔を上向かせる。どうしたって身長差がありすぎて、俺は背伸びしても届かない。  ユーリスは少し屈んで、俺の唇に柔らかく触れるだけのキスをする。瞬間、鳴り響く鐘の音と祝砲の音にビクッと肩を震わせた。 「ここに、二人を夫婦と認めます。末永く幸せに生きなさい」  参列者の歓声と祝福の花びらが舞う中、俺は少し潤んだ目でユーリスを見る。ユーリスも俺を見て笑って頷いてくれる。  肩を抱かれながらバージンロードを進み、重厚な教会の扉を開ければ外は明るく、多くの歓声が響き渡っている。

ともだちにシェアしよう!