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更紗の場合/42
賢人side
最後に佐知くんに会わせたときの更紗は笑ってた。
更紗はあの日以来泣いていない。
あの日俺が何があったか問い詰めて声を失ったと告白されてから…
更紗は感情のない笑顔を張り付けただけの人形と化していた
『大丈夫だよ。ありがとう。ごめんね』
「更さん…」
結局更紗は被害届は出さなかった。きっと彼を苦しめたのは自分だと思っているから…
「更さん…すいませんでした…こんなに…苦しめて…こんなに…傷付けて…こんなに…」
続けて謝罪の言葉を紡ごうとする佐知くんの唇に指を当て塞ぐ更紗。
佐知くんはとても苦しそうな顔をしていた。
佐知くんも気付いたんだ…更紗が壊れてしまったこと…
『佐知くんは何も悪くないからね?』
笑顔で背の高い佐知くんを撫でる
「更さん…俺のしたことは許されちゃダメです…間違ったとこをしたのは事実で…取り消すことはできない…すいません…俺…もう…近付きません…約束します…更さん…ありがとう…」
佐知くんはそれ以上更紗に話しかけるのを堪え押し黙った。
その姿を見てひらひらと手を振り更紗はにこりと笑って踵を返した。待っていた両親に肩を抱かれ帰っていった
佐知くんをみやると苦しそうに涙していた。
俺の服の裾をつかみ
「賢人さん…ごめんなさい…俺の…俺のせいですよね…」
そう呟いた
「そうだね。君のせいだ。佐知くん。でも心配しないで。俺が何があっても更紗を支えるから…更紗を…こっちに繋ぎ止めて見せるから…だから…佐知くん…そんなに気に病まないで?」
「でも…」
迷い子のように視線をさ迷わせる佐知くんをそっと抱き締める。
「佐知くん…更紗が救われる方法は…君がこれから出会う誰かと幸せになれることじゃないかな?俺にはわからないけれど…」
「でも…俺…」
佐知くんの唇に己の唇を重ねた。これ以上自分を責める言葉なんて吐かせたくなかった
案の定驚き固まった佐知くんは言葉を失った
「更紗を苦しめたバツね。あまり気にくわない俺からキスなんてされたとなっちゃ…ね?」
「賢人…さん…」
「ごちそうさま」
「俺は…」
「何?もしかして俺とのキス気に入ったの?それ以上何か言ったら…あ…佐知くん…もっと…お仕置きして欲しいの?」
「…」
「ねぇ…して欲しい?」
「俺に…罰を与えてください…」
「…おいで」
病院の側に昔ながらのラブホがある。
そこに佐知くんを連れ込んだ。
「優しくなんてしないからね」
「はい…」
佐知くんの初めてを俺は奪った。涙と欲望が枯れるまで攻め立てた。
佐知くんの悲しみも更紗の悲しみも全部全部吐き出したものたちと一緒に出ていってしまえばいいのに…
ねぇ…更紗…君は今何を思う?
「賢人さん…どうして…こんなに優しく抱いたの?」
「優しい?」
「はい…だって…苦しくなかった…」
「…それが一番君にとっては罰になるでしょ?君を傷付けることで、君は楽になるかもしれないけれど…でも…」
「…」
「佐知くん。君はまだ若い。だからまだ修正はできるはずだよ。だから大丈夫。更紗のことは任せて。君への一番のお仕置きは誰かと幸せになることだよ?きっとね。じゃあ帰るね」
その後は近所とはいえ活動する時間帯が違うため彼に出くわすことはなかった
少しでも傷が癒えるといいのだけれど…
俺には知る術はない
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