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深雪の場合/21
由斗side
会社に出向き手続きを終えて帰路を急ぐ。
ほんの数時間…この時間が不安でたまらない…深雪がどこかに行っちゃってたら…そう考えると気が急く…
急いで会社から出て近くの駅へ向かう。
急がなきゃ…俺は注意力が散漫としていた。
あっ!!!!しまった…足を滑らせて階段を踏み外し鈍い痛みがやって来て…そしてそこで意識は途絶えた。
目を覚ましたのは白いベッドの上。でもあの独特な薬品の匂いはしない
「った…」
「目が覚めた?」
医者?にしては軽装な若い男が立っていた
「ここは…病院?」
「違うよ。君が階段から落ちちゃった時俺は君の側にいたんだけど君頭打って気を失っちゃったから心配で…直ぐに病院に運んで検査したんだよ。沢山検査してもらって一応問題なかったから夕方まで休ませてもらって後は自宅で経過観察ってことだったからそのまま帰ってきたんだよ」
「…お前…誰だ?」
「え?おかしなことを言うんだね。由斗。君のパートナーでしょ?」
「…まさか…」
「沢山お手紙送ったでしょ?…おかえり…由斗…」
狙いは…深雪じゃなくて…俺?…何で?
「俺は寛大だから由斗の浮気を長く見逃してきたけど…流石にね?」
その笑顔にうっすらと記憶が思い出された
「お前は…宅配業者の…」
うちの会社の宅配業者だ。
「最近は深雪が安定してきたみたいだからもう大丈夫でしょ?だからここに帰ってきたんだよ。俺たちが出会ってからもう一年くらいたったかな…あの頃の由斗はこっちの生活に慣れるのも必死で頑張ってたね。仕事もできる子だったけどよく残業してたよね…」
男の話す内容を整理するならば俺と出会ったのは俺がこっちに来て直ぐ。うちの会社の担当で荷物を運んできてそれを偶々俺が受け取った日からなぜかこいつは俺のパートナーってことになっているらしい。
それから半年で深雪に再会して直ぐに一緒に住み始めたからそれまでの半年はこの家で新婚生活を楽しんだことになっているみたい。
勿論そんな事実はないからこいつの妄想なんだけど…
それから深雪と家に籠ってて外に出ず俺が自分に会えなくて寂しがっていたからと配送エリアの移動希望を出してうちにも配達に来ていたみたい。自宅に来る業者までは覚えていないがあれはこいつだったのか…。
宅配に来た男に会うたび俺がとても喜んで男にすがり付きこいつに愛を囁いてその場で楽しんだことになってる。勿論そんなのも妄想
そしてそれから暫くして外に出るようになった俺たちは宅配を使わなくなったから俺が男に会えなくなって寂しくて堪らなくなっている。
でも深雪がまだ不安定だから優しい俺は家に帰りたいと言えないんだと思い込み俺を寂しくさせるのは可哀想だと、いつも近くで毎日見ている、寂しがらないでという意味で写真を送りつけてきたらしい。
深雪の一人の写真についてはもう元気になってるんだから大丈夫だよ。友人思いなのはいいけど深雪はもう一人で歩いていけるはず。甘やかしたらダメだよ。こんなに柔らかく笑ってるから。深雪の事を思うのならもう離れなくちゃ…もう帰っておいでってことで撮ってみたと…
「俺の顔を切り刻んで送りつけてきたものの意味は?」
「由斗は乱暴にされるのが好きだったから。いつも切り刻んで攻めてあげたら泣いて喜んでいたじゃない?深雪の顔に俺のをかけたのは隣にいるのは俺だから一緒によくなろうねって伝えたかったからだよ。ごめんね。俺と由斗の二人の写真撮ってなかったから深雪の写真になっちゃったけど深雪と俺似てるから丁度いいでしょ?」
「…」
うん…理解不能だ…全くもって微塵も深雪に似てる要素はない…敢えて言うなら目の色くらいだろうか?…まぁ…取り敢えずこいつはおかしい…さて…どうしたものか…
怪我は大したことなかったようだがまだ少し目眩がする
「由斗。写真じゃなくてこれから楽しもうねぇ。久しぶりだから俺もう我慢できない」
「…ごめん。悪いけどそんな気分じゃない。今日怪我したばかりだよ?何かあったらやだよ」
「うーん…それもそうかぁ…じゃあ…俺が君をよくしてあげる…」
「いや。いい」
「どうして?触られたかったでしょ?ずっと」
「そうでもない。」
「もう。由斗は照れ屋だね。久しぶりで緊張してるの?」
「そういうことじゃない。取り敢えずここに帰ってきたこと深雪に連絡していい?急に同居人が何も連絡なしに帰らなかったら捜索願いとか出されちゃうでしょ?」
「あぁ。それもそうだね」
「俺のスマホとって」
「はい。」
「ありがとう。ところで住所何だっけ?ここ」
「あれぇ?忘れたの?」
「ごめんね。怪我の後遺症かな?君に出会った頃が思い出せないんだ。深雪と再会したところからは覚えてるんだけどね…」
「そうか…まだ混乱してるのかな?怪我で一番幸せだった頃を忘れちゃうって聞いたこともあるし。やっぱり入院させたらよかったね…ごめんねぇ。由斗が早く帰りたいって言ってたから」
「いや。こちらこそごめん。君とのこと思い出せなくて」
自分でいいながら矛盾だらけだと思うけど男は深く追求してこなかった
目が覚めたばかりだから混乱してるって位にしか思ってないのだろう
それからウィルに連絡を入れて変に男を刺激しないよう様子をうかがいながら落ち着いて話すことに努めた
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