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第13話 サヨナラ

13 サヨナラ 原田さんの家には、風変わりな同居人がもう一人居た。 バックパッカーで3ヶ月ほど日本にいるジェイってアフリカ系の人。 戦乱にまみれた大変だった過去を賑やかな笑い話に変えるその人と楽しく過ごすうちに僕の小さな不幸はそんな大変でもないように感じてきた。 「 馳、少し持ち直した。だろ?」 「 うん、ありがとう。竜也さん。誘ってくれて 」 「 おい。ここに住めよ。 どうせ後数日で日本から居なくなるんだから 」 「 そうだね、そうしようかな 」 ここに来るまでは、甘えたらダメだとか頼ってはいけないなんて、とてもマイナス思考だった。 ジェイさんと知り合って、短時間で人は変われるんだなということを知った。 「 草太さんと話しなよ。距離が離れてしまったら二度と会えないことが起きるかもしれないから 」 「 そうだね、ありがとう。きちんと話してみる 」 翌週、僕は草太に連絡を取った。会ってきちんと話をして、それから? わからないけどその先の未来は考えても仕方がない。 会社帰りに二人の勤務先の最寄り駅で会う。落ち合って居酒屋に入ると、 「 雄介どうしてる?」 と聞いた僕に、 「 元気ないよ、喋らなくなった 」 胸が痛い。 「 まぁ、お袋がつきっきりで世話焼いてるけど……なんだろな、子どもって我慢するんだろうな 」 気持ちがどんどん辛くなる 帰りたい、出かかった言葉を飲み込みながら、 「 雄介にサヨナラも言ってないから 」 「 なんで、サヨナラなんて言う必要があるんだ? 暫くなんだ、暫くこの話しが落ち着くまでの間別々に暮らすだけだ 」 「 でも僕はこの後、日本を出るよ。 そうなれば雄介とは長いこと会えなくなる。サヨナラ、はきちんと伝えたい 」 暫く黙った草太は溜息をつくなり、 「 そうだな、そうしてくれると、助かる 」 と小さく頭を下げた。 僕らは他人になったんだ、強烈に感じたその草太の姿。 そのまま、お互いに触れることも握手もせずに僕らは別方向のホームに分かれる。 サヨナラ、草太。 僕は心の中でもう一度呟いた。 なんとなく忙しない週の終わり、草太から明後日、日曜に連れて行くけど何処にいるのか?と聞かれたので、僕は実家にいると嘘をつく。 なんとなくまだ竜也さんの所に居候してるって言うのは言いづらい。わかったと通話を切った草太にごめんねと頭を下げた。 簡単に草太に嘘がつける自分にこんな奴草太は早く忘れて、と思いながら。 鵠沼に住む母に電話をする。 「 あら、もう親なんか忘れたと思ってたわよ 」 笑いながら言う母に長期の出張の事と日曜の事を伝えると、 「 わかった 」 と一言言って通話は終わる。なぜか余計な事を聞かれなかったことに安堵した。

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