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第58話 後押し。

「仕方が無いなぁ。今日のところは我慢してあげる。」 『何で上から目線の言い方なんだよ。』 「ふーん。そんな強気な態度取るなら、その人が来るまで居座っちゃうからね。」 『はい?』 「初めましてー。文月の恋人の咲良でーす。彼がいつもお世話になってまーす。とか言っちゃって。」 『はぁ?下らない冗談言ってないで、さっさと帰れよ。』 「え?今、何て?」 (コイツなら本当にやり兼ねない…) 『いえ。駅まで送らせて頂きますので、朝食を召し上がったら速やかにお帰り下さい。』 「ふふっ。宜しい。でもさぁ。」 『何だよ?まだ何か有るのかよ?いや、有るんですか?』 「その人と付き合う事になったら、ちゃんと紹介してよね。」 (付き合う…か。そんな日が訪れてくれるのだろうか?好きな人が出来たらセフレは解消して友達に戻る。それはつまり…俺との未来は無いって宣言されてるに等しい。) 『そうなれたらな…』 「何よー。らしくない。文月は私が認める程の良い男よ。」 『うーん。お前に認められてもなぁ。』 「私の男を見る目は確かなんだからね。もっと自信を持ちなさいよ。その人の事好きなんでしょ?」 『ああ。』 (好きだ。どうしようもない程にアイツの事が好きだ。) 「それなら、諦めないで頑張りなさいよ。」 『そうだな…頑張ってみるか。』 (咲良の言う通りだな。 此処で諦めてしまったら、万に一つの可能性さえも消え失せてしまう。始まりが何であれ、希望を捨てるべきでは無い。例えセフレのままで終わったとしても、振り向いてもらえなかったとしても、水無月の傍に居たい。アイツを手離すなんて出来ない。) 咲良は文月の表情に強い決意を感じ、笑みが溢れた。 「よし!じゃあ、さっさと食べて、私を駅まで送って頂戴。」 『はいはい。』 「あ、お兄ちゃんと会う時には一緒に来てよね。約束したからね。」 『くくっ。お前には参るよ本当に。』 「もしかして、私に惚れちゃった?えー。どうしよう。」 『いや、それは有り得ないから。』 「ひどーい!先の事は分からないでしょ?」 『お前とは無いから安心しろ。』 「ちぇっ。でもさぁー。」 結局、この実りの無い会話が朝食を取り終えるまで繰り返され、部屋を出る頃には、文月は疲れ果てていた。

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