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第57話 初めて目にする顔。

咲良は、文月の言葉と表情に驚嘆した。彼が誰かに本気になっている姿を、初めて目にしたからだ。 「へぇー。」 『何だよ?』 「文月のそういう顔初めて見た。そんな顔も出来るんだねー。」 『そんな顔ってどんな顔だよ?』 「恋してる顔。」 『な、何言ってるんだよ。』 「文月はその人の事が大好きなんだねー。」 腕組みをし、うんうんと頷く咲良を見て、急に気恥ずかしさが込み上げる。 『そんな話は良いから、早く食べろ。俺はこの後、買い物に行かなきゃならない。』 「ああ、そうよねー。大好きな人に手料理を振る舞うんだもんねー。」 『ったく…誰のせいだと思ってるんだ。』 「男が細かい事を一々気にしないの!大好きな人に嫌われちゃっても知らないわよ。」 『……』 「あら、私の冗談を真に受けちゃう程好きなのね。ねぇ…今夜その人来るのよね。」 (咲良の今している表情、何か良からぬ事を企んでいる時の顔だ。嫌な予感しかしない。) 『それがどうした?』 「んー。私もその人にお会いしたいなぁと思って。」 『駄目だ。駅まで送ってやるから、朝食が済んだら帰れ。』 「えー!良いでしょー!」 (只でさえ難しい状況なのに、こいつが居たら余計にややこしくなるに決まってる!しかも俺の好きな相手が男だと知ったら、何を言いだすか分かったもんじゃない。) 『まだ付き合っても無い状況下でお前に会わせたら、上手くいくものもいかなくなる。』 「ちぇっ。意地悪!」 『これ以上食い下がるなら、お前がアイツと話をする時に付いて行ってやらないぞ。』 「ひどーい!」 (酷いのはお前の方だろ!今夜は水無月とこれからの事をきちんと話し合わなきゃいけないのに、コイツに邪魔をさせてなるものか。まぁ、話し合うと言ってもセフレになる事に変わりは無いだろうけど。あ…自分で心の中で言ってて、凹んで来た。) 『とにかく、今日は大人しく帰れ。』 「ちぇっちぇっちぇーっだ!」 『お前、語彙力が乏し過ぎるぞ。小学生か?』 「ごいりょくって何?囲碁の仲間とか?」 (あ。駄目だコイツ。) 『語彙力ってのは、言葉をどれだけ知ってるのかって意味だ。つまり、語彙力が乏しいってのは、言葉の知識が少ないって事だ。分かるか?』 「言葉を知らないって事ね。なら、最初からそう言ってよ。」 (だーかーらー。そう言ってるだろー!はぁ…こいつに何を言っても無駄な気がする。此れで良く大学に入れたな…)

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