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第64話 彼からの電話。

『本気か?本気で文月とセフレになるつもりなのか?』 「うん。」 『アイツの事が好きなんだろ?』 「…うん。」 『それなら、セフレなんかになる必要がどこに有るんだ?お前はそれで幸せになれるのか?アイツに気持ちを伝えて恋人として付き合えば良いじゃないか!』 水無月の顔が悲しげに曇るのを目にし、周は、いつの間にか語気を強めた声を発していた事に気付いた。 『悪かった。つい…』 「いや、良いんだ。周は何も悪くない。」 そう言って寂しげに微笑む水無月を見つめ周の胸が軋んだ。 「周、後で…俺の話を聞いてくれるか?」 『さっきはつい興奮してお前に色々言ってしまったが、無理に話さなくて良いんだぞ。』 「無理してる訳じゃない。周に聞いて貰いたいんだ。」 水無月の言葉に強い意志を感じ、周は黙って頷いた。 食事を取り終え、周がシャワーを浴びている間に洗い物を済ませた水無月は、リビングのソファーで2杯目の珈琲を飲み始めた。テーブルの上に置かれていた自身の携帯電話を手に取り、着信の表示に目を留めた。履歴を確認すると文月の名前が表示され、水無月は思わず息を呑む。 (今夜会う約束をしているのに、何故電話を掛けて来たんだ?) 不意に、昨夜文月と一緒に居た女性の後ろ姿が水無月の脳裏に浮かび、携帯電話を持つ手が震えた。気持ちを落ち着かせる為に、煙草に火を着け煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。浴室から出て来た周は、水無月が不安げな表情を浮かべているのに気が付き、彼の隣に腰を下ろした。 『みー?どうかしたのか?』 「今朝方、文月から電話が有ったみたいなんだけど、メッセージも入っていなくてさ。もしかしたら、今夜会えなくなったのかも…」 『ああ、それは俺が一度目の電話に出なかったから…』 「え?文月が周に電話を?」 水無月は、眉を顰め、困惑の表情を浮かべる。 周はこの一件を水無月に話しても良いのか迷っていたが、何も言わず彼を余計に苦しめる事になるぐらいなら、正直に話すべきだという結論に達した。 『昨夜、お前が浴室に居た時に、俺は文月に幾度も電話を掛けたが、アイツは一度も電話に出なかった。今朝になって、俺からの着信に気が付いたと言って折り返し掛けて来た。』 「周が文月に電話を掛けたのか?どうしてそんな事をしたんだ?」 『どうしてそんな事をしたかって?アイツが水無月を泣かせたからに決まってるだろ。』

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