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第63話 聞かずにはいられない。

10分程して火を止め溶き卵を流し入れ、粗挽き胡椒と塩を振って味を調えてから、仕上げにスライスチーズを乗せた。周は珈琲サイフォンのスイッチを入れると、水無月を起こしに寝室へと向かった。 『みー、朝食出来たぞ。』 「んー。もう少しだけ…」 『今朝は、リゾットを作ったぞ。』 「…チーズと卵は?」 『入れた。起きるか?』 水無月は返事をする代わりにベッドから起き上がると、浴室に向かってのそのそと歩き出した。周はキッチンに戻り、苦笑しながら呟いた。 『みーを起こすには、食事で釣るのが一番手っ取り早いな。』 野菜スープを作り終え、ダイニングチェアに腰を掛けると、浴室から出てきた水無月が2人分の珈琲をカップに注ぎ手渡して来た。向かい合わせに座り同時に口を開く。 「「頂きます。」」 リゾットを口に入れた瞬間に水無月の顔が緩むのを見やり、周の口元も自然と綻ぶ。 "自分が作る食事を水無月が笑顔で食べてくれる。他愛ない会話を交わし合い、同じ空間で寝起きを共にする。平凡で愛おしい日々を過ごせるのは、後、僅かかもしれない…文月が水無月のセフレになり、もしも恋人関係に発展したら…) 「周、昨日の事だけど。」 (今度こそは、水無月の事を諦められるのだろうか。) 「周。俺の話聞いてる?」 『……』 「周ってば!」 『え?ごめん。ぼんやりしてた。』 「あのさ…」 『うん?』 「昨夜の事だけど…」 『忘れろって言ったろ。』 (本当は忘れて欲しくなんか無い。一夜限りになんてしたくは無い。でも、それを口にしたら、お前を困らせてしまう…) 「うん。だけど…これだけは言っておきたくて。」 『何?』 「抱き締めてくれて、ありがとう。」 (ありがとう…か。) 『身体…大丈夫か?辛く無いか?』 「少しだけ、でも大丈夫。事前に準備、あっ…」 『準備してあったんだろ?』 (俺では無く文月を受け入れる為に。) 「気付いてたのか?」 『気付くさ。俺とする時はいつもそうしてたんだから。』 (我ながら嫌な言い方だ。) 「そう…だな。」 『今夜…文月と寝るのか?』 「……」 (そんな事聞いてどうなるって言うんだ。余計に辛くなるだけだろ?) 『みー、答えて。』 「今夜そうなるかは分からない。でも…」 此処までだ。これ以上は止めておけ。どんな答えが返って来るのか分かり切っているのに…それでも聞かずにはいられない。 『でも?』 「文月が望んだら、セックスすると思う。」

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