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第62話 吐露出来なかった想い。

(思い悩んだところで、どうなるものでも無いな…) 周はキッチンへ行き冷蔵庫の扉を開いてチーズスライスと卵を取り出し、朝食を作り始めた。 フライパンにオリーブオイルを引き、生米を軽く炒めた後にコンソメと水を流し入れて蓋をし、米に火が通るのを待つ間、卵をボウルに割り入れようとした矢先に、ダイニングテーブルの上から携帯電話の着信音が聞こえて来た。 周は一旦火を止め、電話を手に取ると、一呼吸置いてから通話を押した。 『…はい。』 文月の息を呑む様子が電話越しに伝わってくる。 『もしもし。文月?』 『ああ…俺だけど。』 『うん。』 『あのさ、夜中に何度か電話くれたよな?』 (ああ、幾度もしたさ。) 『…うん。』 『さっき着信に気が付いて、折り返し掛けたんだけど、お前電話に出なかったから、水無月にも掛けてみたんだけど…』 『……』 (さっき気が付いたって?其れまで、お前は一体何をしていたんだ?一緒に居た女と朝まで過ごしていたのか?) 『周、聞こえてるのか?』 『ああ…水無月はまだ寝てる。』 『そうか。』 『で…何か有ったのか?』 (何か有ったのかだと?水無月がどんな思いで…) 『……』 『…周?』 『いや…もう良いんだ。』 (言っても詮無いことだ。) 『もう良いって…』 『今夜、水無月と会うんだろ?』 『え?』 『この前一緒に飲んだ時に言ってたろ?水無月にパスタを作るって。』 (その後、セフレになるって提案を受け入れてたろ?) 『ああ、うん。お前は…』 『俺は今夜予定が入ってるから、行けない。』 (今夜、文月の顔を見たら、怒りで箍が外れて全部ぶち撒けてしまい兼ねない。そんな精神状態で会える訳がない。そんな事をしたって、水無月を苦しめるだけだ…) 『そうか。』 『お前、昨夜…』 『え?』 『いや…何でも無い。今、朝食を作ってる最中だから…』 (水無月が起きて来る前に、この会話を終えたい。) 『ああ、うん。分かった。』 『じゃあ、又な。』 『うん。又な…』 周は通話を終えると、吐露出来なかった想いを飲み込む様に口端をきゅっと結ぶ。携帯電話をテーブルの上に置き、再びキッチンに戻ると、フライパンを火に掛け、卵を溶き始めた。

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