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第61話 愛しさと嫉妬。

水無月の寝室で彼を抱き締めたまま眠っていた周は、携帯電話の着信音を耳にし、音がする方へと手を伸ばす。夢うつつの中、携帯電話の画面に目を遣り表示された名前を視界に捉えた瞬間、肩がぴくりと震えた。 通話を押そうか迷っている内に電話が切れてしまい、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は水無月の携帯電話から着信音が流れて来た。 周はそれが誰から掛けられて来たものか、確かめなくとも既に分かっていた。数回のコールの後、着信音が途切れ、周は安堵の溜息を漏らした。 「周?」 音に反応したのか、水無月がぼんやりと目を見開く。 『みー、起こしちゃったか?』 「んー…」 『今から、朝食の支度をするから、まだ寝てろよ。』 水無月の髪を指で梳きながら、優しい声色で彼に話し掛けた。 「んー。ありがとう…」 水無月が再び寝息を立て始めたのを確認すると、2台の携帯電話を手に取り、静かな足取りで寝室を後にした。ダイニングチェアに腰を下ろすと、テーブルの上に置いた2台の携帯電話を、ジッと見つめた。 (文月が電話を掛けて来たのは、俺が深夜に幾度も彼に電話を掛けたから。今更だ…文月が女性と一緒に居なければ、こんな事にはならなかったかもしれない。あの時、電話に出てさえくれていれば、踏み止まる事が出来た筈なのに…いや、違う。文月だけを責める事は出来ない。俺が…俺自身が水無月の肌に触れたかった。2人の想いに気が付いていたのに、水無月を切望する余り、現実から目を逸らしてアイツを抱いてしまった。) だが、望んでした筈のその行為が、自身の心を深く傷付けた。本来なら、彼処は男を受け入れる器官では無い。男同士でセックスをする場合は、受ける側の負担がかなり大きい。俺達が肌を重ねていた頃、水無月は必ず事前に下準備を行っていたが、昨夜に限って、彼は俺をそのまま受け入れた。 その疑問に対する答えは、水無月と繋がった瞬間に彼の身体が教えてくれた。水無月は既に受け入れ可能な状態にあった。それは…俺の為にしてくれた事では無い。今夜、文月を受け入れる事になるかもしれない…そんな思いから、事前に下準備を済ませていたに違いなかった。行為の最中、水無月への愛しさと文月への嫉妬が激しく渦巻いた。 周は水無月の幸せを願いながらも、沸き起こる感情を抑え切れない自分を酷く持て余していた…

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