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第66話 傍に居てくれた。

(それなら、どうしてセフレになるなんて馬鹿げた話になるんだ?) そう尋ねたいのに、喉の奥が強張ってしまい和らげようと上下するが中々言葉が出て来ない。腑に落ちない表情を浮かべ、黙り込む周を見て、水無月は話を続けた。 「文月が俺を想ってくれてると知って、恋人になって欲しいと言われて嬉しかった。だから恋人として傍に居たいとアイツに言ったんだ。」 好きな人と想いが通じ合い、本来なら幸せな筈なのに、水無月の顔には陰りが見える。周は口を噤んだまま、話の続きを促すように、彼の手を自身の両手でそっと包み込んだ。 水無月は深く呼吸をし再び口を開く。 「其れで、そのままそういう雰囲気になって、その時に、俺が前に付き合っていた人が男だって話をしたら…」 消え入りそうな声で話す水無月に、周は優しく問い掛けた。 『文月は何て?』 「言われたんだ。」 『何て言われたんだ?』 「お前ゲイか?男が好きなのか?俺は何人目の男だ?って。」 『文月がそんな酷い事を言ったのか?』 「ノン気のあいつからしてみたら、男を好きになってしまった事自体受け入れ難い事だった筈だ。その上、俺が同性しか愛せないゲイだと知ってショックを受けたと思う。だからアイツが俺を責めた事も理解出来る。」 (文月の言葉に水無月はどれだけ心を痛めたのだろう。 同性しか愛せないのは罪な事なのだろか?人を愛しただけじゃないか。何故いつも水無月ばかりが辛い思いをするんだ?) 「だけど、文月の言葉を聞いて、あの頃に引き戻された気がした。その時気が付いたんだ。もし文月と俺が恋人になったら、きっとあの時と同じように周囲の人々を傷付けてしまう。そして何よりも、文月に辛い思いを強いる事になる。」 『だから、恋人にはならないって決めたのか。』 「うん。恋人にはなれない。今まで通り友達でいようって言った。」 『其れでも、文月が好きだからセフレになるって事だよな?』 水無月は答えの代わりに寂しげに微笑んだ。 『お前、何処までお人好しなんだよ!あの時もそうだ。一方的に責められて酷い言葉を吐かれても相手の事を気遣って身を引いて、結局お前自身はボロボロになったじゃないか!それなのに今度はセフレだって?』 「そうだな…呆れるよな。あの頃、確かに辛い事が多かった。でも、其れだけじゃ無かったよ。」 『其れだけじゃ無いって何だよ?!』 「お前が、傍に在てくれただろ?」

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