『水無月…』 「それに、一番悪いのは俺だから。」 『お前は何も悪い事なんてしていないだろ。』 「いいや、したんだ。俺は自分の気持ちと向き合う事から逃げて、凪の好意に甘えた。結局それがアイツの心を傷付けてしまったんだ。」 初めて聞かされた話に、周は戸惑いの色を隠せない。 『お前の気持ちって？凪の心を傷付けたってどういう意味なんだ？』 周の問いに、水無月の瞳と心が揺れる。其れ等を悟られまいと、彼から視線を外した。 「何でもない。今の話は忘れてくれ。」 『お前と凪の間に俺の知らない何かが有ったのか？其れが別れた理由なのか？』 「周は気にしなくて良い。これは凪と俺との問題だ。それに、もう過去の話だ。」 『俺には言えない事なのか？』 周の問い掛けに、水無月は口を噤んで肯定の意を示した。 『分かった…みーが言いたくないなら、これ以上は詮索しない。』 「ありがとう…」 水無月の言葉に困惑しながらも、彼の頑なな姿勢を見て、周は追求する事を諦め、話を本題に戻す。 『其れで？文月とセフレになった後に、もし互いに好きな人が出来たらどうするんだ？』 「どうもしないさ。アイツに好きな人が出来たら、セフレを解消してこれまで通りの関係に戻るだけだ。」 『何も無かったかの様に？そんなの不可能に決まってる！』 「不可能じゃないさ。」 『どうして言い切れるんだ？』 「だって…俺達がそうだったろ？」 自分達の過去を引き合いに出され、周は言葉に詰まる。 「俺達は身体の関係を持った後、互いに気持ちを確かめないまま恋人になったよな？其れで、結局は別れた。でも今は？色々有ったけど、友人として付き合えてるだろ？」 水無月の瞳の奥が悲しみの色を湛えている事に、此の時、周は気付けずにいた。 『其れは…確かにそうだが、俺達の場合とは状況が違う。恋人にならない事が前提に有るなら、肌を重ねれば重ねた分だけ余計に辛くなるだけじゃないか。そんな関係虚しいっ…』 言い途中で周は自身の言葉にハッとし口を噤んだ。 「確かに、身体だけの関係が辛く無いと言えば嘘になる。寂しくてどうしようもない時も有るかも知れない。でも周、俺はね。例え終わりが見えてる関係だとしても、其処に想いが有るなら虚しいだけじゃないと思うんだ。お前が心配してくれてる事も良く分かってるけど、もう決めたんだ。」 文月との事を言っている筈の水無月の言葉が、周には自分達の関係が虚しいだけでは無かったと言ってくれているように思えて、胸が熱くなった。