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第69話 遠去かる足音。

洗顔を済ませて来た水無月の表情には、明るさが戻っていた。2人は部屋の掃除を済ませてから、まるで何事も無かったかの様にリビングでTVを観ながら他愛ない会話を交わした。夕方になり、出掛ける支度を始めた水無月に周が声を掛ける。 『みー、今夜は帰って来るのか?それとも…文月のマンションに泊まるのか?』 「どうかな…分からないや。」 『そっか…』 「一緒に行くか?」 『いや、文月とちゃんと話し合って来い。それに、俺も今夜は出掛ける予定が有る。』 「誰かと会うのか?こっちに来たばかりで知り合いは少ないだろ?」 『恵さんと会う。』 「恵さんって、河泉のオーナー?」 『ああ、彼のマンションで一緒に飲む約束をしてるんだ。』 「2人きりで?周から誘ったのか?」 『いや恵さんが誘ってくれた。』 「え?恵さんの方から?」 『みーは、俺が他の人と会うのがそんなに気になるのか?』 矢継ぎ早に質問を浴びせて来る水無月に周が揶揄い半分に尋ねた。 「恵さんって、自分のプライベートの空間に余り人を招き入れたりしないから、少し意外だっただけだよ。」 『そうなのか?それなら、昨日いきなりマンションに行ったのも悪かったかな。』 「昨日はスタッフとの顔合わせも兼ねてたし、それに周と話をしてる時の恵さん凄く楽しそうだったよ。今日も、彼の方から誘ってくれたんだろ?それなら、周の事を気に入ってくれたって事だ。良かったな。」 少し拗ねた口調で話す水無月を見て、口元が緩む。 『そっかぁ、俺、恵さんに気に入ってもらえたのか。』 「何にやにやしてるんだよ。気色悪いぞ。」 『みーが拗ねてる姿が可愛くてさ。』 「拗ねてなんてねーし!」 『俺にとって一番大切な友人はみーだから、ヤキモチ妬かなくても大丈夫だぞ。』 「はぁ?ヤキモチなんて妬いてねーし!俺、もう行くから!」 周は玄関口に向かう水無月の腕を慌てて掴み、背後から抱き締めた。 『水無月、ごめん。冗談が過ぎた。』 「…しょーがねーから、許してやる。」 『なあ…』 「ん?」 『もし…何か有ったら直ぐに電話を掛けて来いよ。』 「うん。ありがとう。でも、大丈夫だよ。」 『そっか…』 彼の返事聞き、抱き締めていた腕をゆっくりと解いた。 「じゃあ、俺、行くよ。」 『ああ、気を付けてな。』 玄関の扉が閉まり水無月の足音が遠去かって行く。周は暫くの間、その場から動く事が出来ずにいた…

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