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第78話 焦りと虚無感。

「はっ…はぁ…ふぅぅ……」 荒くなった呼吸を整えようと、胸を上下させている水無月の艶やかな肢体を眼前にし、熱を放出したばかりの文月の情欲は、治るどころか再び頭を擡げ始める。腹上に放たれた白濁を指の腹で拭い、彼の口元へと運び下唇に塗り付けた。羞恥の色を浮かべながらも、舌裏で其れを舐めとる水無月の卑猥な仕草に文月の息が上がる。 『はぁはぁ…』 (お前は情欲に濡れたその瞳を他の男にも向けたのか?) 欲望と嫉妬の感情が縺れ合い表情が歪む。其れを気取られまいと、水無月の胸元に顔を寄せた。ピンっと張った胸の突起を口に含み、舌で舐め廻しながら、股ぐらに手を挿し入れた。陰茎をやわやわと揉むと、同時に刺激を与えられ勃起した水無月の割れ目からは、透明な蜜が流れる。 『はぁ…ヌルヌルしてるぞ…』 「ぁあっ…ふっ…」 文月は濡れた指先を下まで滑らせると、密孔の襞(ひだ)に這わせた。 『はぁ…はぁ…水無月。此処を弄って欲しいなら自分で足を開けよ。』 「……え?」 抑揚の無い口調に違和感を感じ、上半身を起こしすと、熱く滾った身体に反して、ジッと己れを見据えて来る文月の瞳の奥からは、怒りと哀しみが滲んでいた。水無月はサイドチェストからゴムとローションを手繰り寄せると、彼に手渡した。ローションを指先に垂らし、ねちゃねちゃとわざと卑猥な音を立てている文月の姿に、水無月は言葉を発する事が出来ず、口端をきゅっと結び、脚をゆっくりと開いて見せた。 (お前はこうやって脚を開いて見知らぬ男を誘ったのか?水無月に命令しておきながら、淫らな姿を露わにした彼に、眉を顰めてしまう自分が嫌で堪らない。こんな事をしても嫌われるだけなのに…分かっていても理性が効かない。心が急いてしまう。他の男の痕跡を全て消し去ってしまいたい。俺で埋め尽くしたい。早く…早く…) 文月は挿入口を解す事無く、肉溝に指を2本捻じ込みぐちゃぐちゃに掻き回した。 「うっ…ぁああ!」 内壁の一箇所を擦ると水無月の下肢がびくびくと震えた。指を増やし一点を集中して攻める度に、水無月の口端から淫声が漏れる。 『水無月、此処が感じるんだな。』 「あっ…あっ…あぅっ…」 文月の先端から湧き出た蜜は、陰茎を伝い下生えを濡らした。 『はぁ…ふぅ…もう限界だ…入れるぞ。』 密孔から指を引き抜くと、硬く張り詰めた自身の雄にゴムを被せ、ローションを纏わせている文月の様を水無月は呆然と見詰めた。 「文月…ちょっと待って…」 『ふぅ……無理だ。待てない。』 (どうして…セフレだから?文月にとって俺の気持ちはどうでも良いものなのか?) 自分の言葉に耳を傾ける事なく行為に及ぼうとする文月に、愛情や労りを見出せず、水無月の心は虚無感に囚われていった…

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