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作家デビュー 2(side:佐藤くん)

 斉藤吉高先生は僕が審査員特別賞を受賞したのと同じ新人賞で、10年以上前に大賞を受賞してデビューした作家だ。  受賞作はアニメ化して大ヒットし、その後は一般小説にも活躍の場を広げ、数年前に恋愛小説が大ヒットして映画され若い女性にまでファン層を広げた。  一般小説で大ヒットしたラノベ作家はたいていラノベを書かなくなってしまうものだけど、斉藤先生は今でも変わらずラノベレーベルでも書き続けている。  僕が斉藤先生の本を初めて読んだのは一昨年、大学に入学してからだ。  それまでの僕はガチガチのハードSFファンで、科学的理論がしっかりした難しめのものばかり読んでいて、斉藤先生が人気があるのは知っていたけど、ちょっとSF要素がある学園コメディという認識で趣味に合わないと思って読んでいなかった。  けれどもある時、友人が貸してくれた斉藤先生のデビュー作を読んだ僕は衝撃を受けた。  これ、ものすごくSFだ……!  作品全体で見れば、確かにSF要素の記述は少ない。  けれども、要所要所に仕込まれたそれらは、終盤になって驚くような展開に収束する。  濃いSFファンにとってはお約束のその設定は本来なら長い説明を必要とするはずなのに、その小説の中ではうまく例えを使ってさらりと説明されており、SFに詳しくない人や中高生でも簡単に理解できるように書かれていた。  気になって他の作品も読んでみると、ラノベだけでなく一般小説や恋愛小説にまでも同様にたくみにSFのエッセンスが取り入れられていた。  斉藤先生のインタビュー記事を探して読んでみると「SFが好きなので、どんな小説にもついSFの要素を入れてしまうんです。だからSFに興味のなさそうな人がそういう要素を面白いと言ってくれるのが一番うれしい」という言葉を見つけた。  その言葉もまた、堅苦しいSFばかりを好み、自分でもそういう小説を書いていたが、同じ趣味の仲間も小説を読んでくれる人も少なかった僕にとっては衝撃だった。  僕もこんな小説を書いて自分の好きなSFの要素をたくさんの人に読んで欲しい。  そう思った僕はこれまでとは作風を一変させた小説を投稿サイトに連載するようになり、いつか斉藤先生のようにたくさんの人に本を読んでもらえるような作家になることが目標になったのだ。  そんな大ファンの先生に実際に会えることになって浮かれた僕は、投稿サイトに連載中の小説を書く合間に斉藤先生の本を読み返しつつ上京する日を待った。

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