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お泊まり 3(side:斉藤先生)

 突然だが俺はゲイだ。  初恋は小学校低学年の頃、覚えたばかりの逆上がりをやってみせたら、「よしたかくん、すごい!」と俺を尊敬の目で見てくれた近所の一個下の男の子だった。  そんな頃から承認欲求強かったのかよと我ながらあきれるしかないのだが、基本的なところは今も変わっていない。  しかも惚れっぽい方なので、褒められたりちやほやされたりすると、すぐにその相手を好きになってしまう方だ。  人気作家になってからは褒められる機会が増えたが、それでも俺の小説を褒める人の大半はSF要素ではない部分を評価しているので、褒められたら笑顔で礼を言いはするが、内心は「褒めて欲しいのはそこじゃないんだよなぁ」と思って惚れるところまではなかなかいかない。  そうやって褒めてくれた人の中で大人の付き合いができそうな相手と遊んだりすることもあったが、本気になることはなかった。  けれども、もし俺の小説のSF要素を考察して評論にまとめてくれたあの書評家や、いつも俺の小説のSF要素のネタ元をブログにあげてくれているあのファンみたいな、濃いSFファンに面と向かって褒められたら絶対に惚れてしまうと思う。  それがわかっているので、作家デビューしてからは彼らや他の熱心なSFファンに会う可能性があるSFファンの集まりには顔を出せなくなってしまっていた。  それなのにだ。  それなのに俺は、うっかりそのことを忘れて佐藤くんとの対談をセッティングしてもらってしまったのだ。  初めて会う佐藤くんは、かなり緊張していたようだが、憧れの作家に会えたという喜びが全身からあふれ出ていて、そんな佐藤くんに俺は完全に一目惚れしてしまった。  佐藤くんは顔立ちは平凡だが小柄で俺好みの体型だった上に、対談で話したら今まで読んできたSF小説の好みも俺と似ていて話も合い、俺は短い間に自分がどんどん佐藤くんのことを好きになっていくのを感じた。  ──けどまあ、いくら俺が好きになっても、佐藤くんはノンケだろうからなあ。  俺がこんなよこしまな目で見ているなんて、きっと全然気付いてないだろうし。  それに佐藤くんは名古屋に住んでいて会う機会も少ないだろうから、俺の気持ちもすぐに治まるだろう。  そう考えて早々にこの恋心を諦めることにしたけれども、それでもやっぱり離れがたくて佐藤くんを晩飯に誘ってみたところ、なんと佐藤くんが今夜はネットカフェに泊まると言い出した。  ダメだろ!  こんな子犬みたいな子が東京のネットカフェなんかに泊まったら、絶対に犯罪に巻き込まれるから!!  佐藤くんをそんな危険な目にあわせたくないと思った俺は、後先も考えずに佐藤くんを我が家に誘っていたのだった。

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