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お泊まり 2(side:斉藤先生)

 そんなある日のことだ。  ラノベレーベルの担当さんから「今年の新人賞の審査員特別賞受賞者が斉藤先生のファンだというので、よかったら帯の推薦文を書いてもらえませんか」という連絡が来た。  「読んでみて面白いと思ったらね」と返事をして、担当さんにデータを送ってもらって読んでみると、その作品はなかなか面白かった。 「しかしこの話、なんか読んだことがあるような気が……」  受賞作は最近人気の異世界転移ファンタジーで、俺がまったく読まないジャンルのはずなのだがと不思議に思いながら、受賞者の名前で検索し、投稿サイトの彼の作品ページを探し当てた俺は、思わず「あっ」と声をあげた。 「これ、あの植物系人造人間の子じゃないか!」  そこにあったのは、なんと俺が以前連載を追いかけていたSF小説だった。  素人のSFにありがちな小難しく理屈っぽい文章でひとりよがりなところもあったが、植物に関する描写にリアリティがあってなかなか面白かった覚えがある。  その連載が終わった後、しばらく間を置いてから始まった連載はSFではなく転移ファンタジーだったので、残念だなと思いながらも彼の作品を読むのをやめてしまっていたのだ。 「待てよ……。  ということは、受賞作はこのSFが元になっているのか!」  そういう目で見れば、俺が読まなかった投稿サイトで連載中の小説も、あらすじに「凝縮された小さな世界が、主人公が転移したことをきっかけにして広がっていく」とあるから、おそらく宇宙のビックバン理論に着想を得たのだろうと想像できた。 「なんだよ、これ……。  方向性は違うけど、コンセプトは俺の小説と同じじゃないか……」  彼の──佐藤くんの受賞作と投稿サイトで連載中の小説は、どちらもジャンルは完全なファンタジーでSFの要素はないけれども、それでもその根底にはSFファンなら感じ取れるSF的思考がある。  現在の佐藤くんの作風は処女作とは違い、多くの人に読まれることを意識したわかりやすいものだし、ジャンルもラノベ読者に人気の転移ファンタジーで、「売れる小説の中にSF要素を」という俺の小説のコンセプトに通じるものがあった。 「この作風の変化は、俺の小説に影響されたからなのか……」  そう思うと、俺は自分の中が喜びで満たされていくのを感じた。  これまでにも俺の小説に影響されて作家になったという人はいたが、それは俺の小説のエンタメ性の高さやわかりやすい文章といった表面的な部分に影響されただけで、佐藤くんのようにSFの要素まで含めて影響されたとわかる人は初めてだ。  俺のファンで、俺に影響されて書いた小説で作家デビューして、名前まで俺のまねをしてくれた佐藤くんは、俺にとってこれ以上ないくらいに俺の承認欲求を満たしてくれる存在だった。 「この子に会ってみたいな……」  そう思った俺は、受賞作の推薦文を書き、「よかったら彼と対談でもさせてもらえませんか」というメッセージを添えて、担当さんに送ったのだった。

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