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第23話

「おはよう、高柳くん」 「……山下さんですか、おはようございます」 「もう7時ですよ、起きてください」 「はい、すいません……俺、風呂にも入ってなくて」 「お風呂なら沸かしておきました。入ってきてはどうですか」 「あ、ありがとうございます。そしたら遠慮なく」 日の光が差して気持ちよく目が覚めた。とおもったら、山下さんがカーテンを開けただけのようだった。 まあ気が利くというかなんというか、お風呂まで沸かしてくれて、気づけば俺はシャワーを浴び、風呂から上がっていた。 「っていうか、なんで部屋にいるんですか!!??」 「高柳くんの身の回りのお世話をするのも僕の仕事ですから」 「えっ、芸能人のマネージャーみたいな感じですか」 「ありていに言えばそうです」 体を拭いている時に違和感に気づいた俺は、腰にタオル1枚巻いただけで浴室を飛び出したが、そんな俺をよそに山下さんは優雅にティータイムを楽しんでいた(多分俺よりこの部屋に何があるか詳しい)。 「さてと、行きますか」 「……どこにですか」 「決まってますよ、朝ごはんです。うちの学園の朝ご飯は結構いけますよ」 「……あの大きな食堂ですよね。食堂というか、もう、貴族の食卓みたいな……」 昨日見学した食堂は大ホールのようだった。人は誰もいなかったけれど、中東部と高等部の人間が丸っと収まるくらいの大きさだったのは見て取れた。 天井にはシャンデリアがついていたり、ごてごての装飾があったり……。 普通に地震とか起きたときめんどくさそうとか思ってしまったわ。 「今の時間くらいに行けば、クラスメイトとも顔を合わせられますよ」 「……俺はどんな顔してクラスメイトに会えばいいんですか」 そういえば昨日王冠を被されてすぐ奈津緒の手によって理事長室まで引っ張られてしまったから、あれ以来クラスの人とも顔を合わせていない。 みんなどんな顔で見俺を見てたのかなあ……、きっときもい奴だって思われたんだろうなあ……転校してきて一日目で、目立っちゃったもんなあ……。田舎の学校だったら目を付けられてシメられちゃうよこんなの…… 「はあ……」 「そのきれいなお顔のままでいいと思いますけど」 「皮肉ですか!!」 「俺は思っていることを言ったまでです、というか、俺も早く朝ご飯を食べたいんです。高柳くん、早くしてもらっていいですか」 「えっ、ごめんなさい……」 突然切れ味のいいご指摘が飛んできて、思わずしりすぼみになってしまった。 まあそらそうだわな……今まで会長のお世話係だったのに、いきなり見ず知らずの成金年下凡人男のお世話係になってしまったわけだもんな……。自分の朝ご飯は二の次に、そんなクソガキを朝ごはんに活かせることを優先しないといけないなんて……。 申し訳ない気持ちでいっぱいだ。 「すぐ支度します……髪の毛セットするのであと少しだけお待ちください……」 「いや、大丈夫ですよ、むしろそのオフの日のような無造作ヘアは、アイドルの私生活っぽくてとてもいいと思います」 「ん? はい? 私生活?」 「ええ。なのでとりあえず髪の毛を乾かしてきてください。その間俺は服の準備をしますね」 「あ、はい」 なんか山下さん、一瞬めっちゃ早口になった気がするけど、気のせいかな。 まあいいか。 髪を乾かして部屋を出る。 部屋を出るとき部屋を見回してみたが、ウワサの同室の人はどこにもいなかったようだった。 そういえば、昨日俺、すごく落ち着いて寝られたなあなんて思った。
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