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第1章 ミーツ!(7)

「つっかれたあー」 夕飯を学食で食べて、すぐに風呂に入り、ベッドに飛び込む。思わず大きな声で、本音が漏れた。机に向かっていた雫が、それを聞き留めて、顔を覗き込んでくる。 「どうした、楽しいことでもあったか?」 「全っ然ー。ていうかほんと、雫の言う通りになってんだけどー」 「えっ、マジ?」 「デスノートでも使ってんの? ちょー怖いんすけどお」  ベッドの上に大の字になりながらやる気なく言うと、雫の瞳が輝いた。ため息を吐いて起き上がると、今日一日の出来事を全部吐き出した。誰かに聞いてもらいたかった、っていうのもある。 「――っていうわけで、俺と会長は生徒会室から追い出されたのでした」 「マジか、すげえな」  ベッドに並んで腰かけて俺の話を聞いていた雫は、感心しきった声を出した。そりゃそうだ、一日にしてあれだけ大勢の人を虜にする転入生なんて、現実世界ではなかなかない。俺は大きく息を吐いた。 「確かに顔はかわいいけど、あんなに必死になるもんかなあ」 「恋の力は偉大、なんだろ」 「そーだけどさー……わっかんねーなー」  転入生のために豹変してしまった副会長が、脳裏を過ぎる。確かに自信家で傲慢なのはいつも通りだったけれども、思慮深さが欠けてしまっているように思えた。頭をがしがしと掻くと、雫が口を開く。 「やっぱり、運命、っていう響きに弱いんじゃねえかな。男も女も」 「運命?」 「そう。季節外れの転校生、っていうだけでも運命的なのに、顔も好みで、キュンとする行動されるとさ、運命かも! とか思うんじゃね? こいつしかいない! とかさ」  さすが、変態は一味違う分析力をもっている。運命、かあ。 「さしずめ、生徒会役員たちは……運命に狂わされた男たち、ってとこ? げろー」  自分で言って吐き気がした。ああ、わりとマトモな人たちだと思ってたのにい……。 「でもまあ、よかったよな。ガチでノーマルなお前はともかく、会長がひっかからないで」 「あの人はねえー……鉄仮面だしね」 「会長まで酔ってたら、仕事になんねーだろ」 「うーん……会長と会計だけ仕事しても、大変だよね……」  これ以上仕事が増えるとか、冗談じゃない。抱きしめた枕に顔を埋めて大きく息を吐いてから、ふとあることに気が付いて顔を上げた。隣に座る、雫の顔を見る。 「そういえばさ、雫は感じないの?」 「何を」 「転入生に、運命ってやつ」  割と真面目に聞いたら、「っぶは」と吹き出して笑われた。失礼な。 「ないない、ねーよ。そんな関わってねーし、第一、傍観者で萌えるのが楽しいんであって、当事者になるつもりはない」 「傍観者っつーことはさ、転入生みたいに美少年だったらときめいちゃうんじゃねーの」 「わかってねえな」  雫は、ふっと笑って格好つけて髪を掻きあげた。うわあ腹立つ。 「美少年と誰かが絡んでるのに萌えるんだよ。……それに俺、三次元には興味ねえし」 「うわー痛い」 「うるせえ女泣かせよりマシだろ」 「泣かせてないですー。……鳴かせてはいるけど」 「死ねよ」  事実を言ったら殴られた。ひどい。そのままぱたりとベッドに倒れて、再び息を吐いた。 「明日は、平和だといいなあ」 「ネタがあったら速攻タレこみよろしく」  煩悩に塗れた幼馴染の背中を蹴ってベッドから落とし、俺はそのまま布団を抱きしめて目を閉じた。  心身共に疲れたからか、今日はぐっすりと眠れそうだ。

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